第377話 幕間 牢屋にて ③

「なにがおかしいか?

 私はつくさねばならんのだ。

 ならば、常にお側に控えなければならない。」

「却下」


 ジェレマイアは溜息をついた。

 予想以上に酷い。

 コンスタンツェを見れば、少女との繋がりが見えた。

 カーンとは違う、もっと無機質で不穏な力の流れ。

 それは少女の背後で蠢いている影にも繋がって見える。

 これはウルリヒ・カーンと少女を繋ぐ呪いとは又違うものだ。

 カーンと少女を繋ぐ呪いは、謂わば人と人の縁と同じだ。

 因縁だろうか。

 だからこそ、それを強引に断ち切るような事はできない。

 逆に反発を招くだろうと考えた。

 二人をつなぎ、周辺の仲間ともつなぐ。その目的の先がわからないのもある。

 そしてこの縁は、二人が考えているより複雑になっていた。

 男が喰われた魂ならば、少女の魂はつねにその喰われた部分を補うように、小さな力が流れ続けている。

 ジェレマイアが見た所、それは気遣い、気配りのような優しいものだ。

 ただし、小さな流れだと言うのに、それを切らした時が厄介だ。

 今回の事もそうだが、そもそも娘を掘り起こした時にみせた行動がそれだろう。

 男は、目印も何も無い瓦礫の中から、娘を掘り起こした。

 命の危機に瀕し、呪いが呼んだのか。

 呪いの効力が宿るグリモアに働きかけたのか。

 誰も気が付かなかった、うっすらと雪が隠し始めた瓦礫の下から掘り起こした。

 無心というより、恐怖に駆られたようだった。

 娘が死んでいたら、この男はどうなっていただろうか?

 呪い、神の愛は何を求めているのだろうか。

 だが、現状この呪いに手を出す事はしない。

 カーンが少女の為を思い行動し、彼女がカーンを気遣うぐらいならば。

 多少の破壊も、コンスタンツェの財力で補填して終了だ。

 問題は、コンスタンツェの変化だ。

 これは呪いではない。

 グリモアの特徴のひとつ。

 眷属生成だ。

 コンスタンツェからは、グリモアの気配と暗い愉悦が見えた。

 少女を宿主としているので、新たな宿主を探したのではない。

 主を支える眷属を、対価を与えて作り出したのだ。

 ボルネフェルトでいう信者共もそれだ。

 しかし、ボルネフェルトとは違い、正しく神より与えられたグリモアである。

 正しいという言葉は不適切だが、本来の眷属、つまり従う性質が極まったグリモアと繋がる者だ。


「仕事も辞めた方がいいかな。

 ずっとお側にいて、お話をしなければ。

 そうだ、うん、そうだな。

 私の屋敷に招くのもいいな」


 コンスタンツェの戯言に、ジェレマイアはどんよりとした。

 信者、従者、眷属、奴隷、どんどん印象の悪い言葉が浮かぶ。

 つまり、主の為にグリモアが従者を作った。


『グリモアは集めた知識を運用する知があるのか、だとしてコイツを選ぶとは質が悪い』


 投げやりな気分になりつつも、魔導の書が狡猾である事は疑いようもない。

 権力層であり裕福、そして異能ありの男を選ぶ知性。

 確かに魔の神が指名しそうな人選だ。

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