第395話 沈没船 ④
多分、威容を誇る城塞と妙に生活感が無い港街を一緒に見たからだ。
どこか不自然で現実味がない。
まるで夢の中を泳いでいるようだと思った。
北は湿った雪も降るが、この微妙な感触が無い。
歩く度に見えない何かを割るような、まとわりつく湿り気。
見えぬ大気を身で割るような?
知らぬまに冷え疲れるのだ。
それに不安と寂しさ、遠くまで来てしまったと思う。
そんな感慨を持つも城塞の外殻に馬車が停まる。
入り口は非常に狭く、一見すると岩壁の何処に扉があるのか見えない。
重い歯車の軋む音。
ゴロゴロと擦れあう反響音が終わると、目の前に穴が開いた。
薄暗い穴に馬車が入ると、通り抜けた後ろに鉄格子が落ちる。
鉄の尖った格子により逃げ道を塞いだ。
馬車の検分の為だ。
薄暗い穴の中で待っていると、武装した兵士が馬と御者を確かめていく。そして中に乗る私達を見て、彼らは頭を下げた。
身を探る許可をと口に出した兵士が、クリシィを見て一度下がる。
ゴソゴソと仲間の兵士と話し合っている。
それに彼女を伺い見るも、いつもの無表情だ。
何もする事のない私は見える範囲を眺めることにした。
馬車が止まっているのは、薄暗い隧道のようだ。
暗く何処に何があるのか、兵士が何処から出てきたのもかわからない。
色々な仕掛けがあるのだろうし、見えなくしているのかな。
そんな事を考えていると、私達を検めていた兵士達に新たな一人が加わった。
女性兵だ。
どうやら身体検査に呼んだのだろう。
クリシィの姿を見て、雑な扱いはまずいと見たようだ。
身を改めるのは当たり前であるが、高位の巫女に無礼があってはならない。
なら、女性の通行にはいつも雑な扱いなのだろうか?
それは嫌だなぁと思ったが、女性の行き来そのものが少ないと気がつく。
城塞内の女性は少ないだろうし、いるとしても少数の住人か兵士だ。
女性兵は丁寧に許可を得ると身体検査をした。
といっても城塞へ立ち入る書類はあるし、同行しているのも神殿騎士だ。
本当にさっと撫でるような身体検査と荷物の目視ぐらいだ。
私もついでに検査を終えると、あっという間に馬車が動き出した。
ちなみに、この馬車は軍のものだ。
行き先が東マレイラ、アッシュガルトのミルドレッド城塞という事で、全てが軍の手配になった。
まぁ本神殿破壊騒動の詫びも兼ねてだ。
どちらにしろ教会に入るとは城塞に住む事だ。
すべては軍の手を通る事になる。
暗く長い隧道を抜けると、そこには高い壁に囲まれた街が広がり、北側の奥には巨大な戦城が聳えていた。
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