第396話 沈没船 ⑤
城塞内は別世界のようだった。
海風も遮られ湿気も下がる。
物々しい男たちが行き交うが、町並みに活気と明るさがあった。
暖かみのある色、灯りがほんのりと町を輝かす。
同じ暗い空だが、アッシュガルトには無い色だった。
そうだ。
あの街は暗かった。
灯り、昼間だったから?
気持ちの所為か?
城塞の町は賑やかで、活気がある。
ここが王都の飛び地であるのは間違いない。
少し気持ちが落ち着き不安がおさまる。
「兵士以外の住人だけで千五百人前後、常駐兵が二千人、巡回時期に城塞に入る兵士が一万五千人以上だそうだ。
ここは地方都市よりも人がいる。」
との説明を聞いて、見た目よりも人口が多いことに驚く。
兵力は一兵団以上が城塞にいる状態を維持しているという事だろうか?
一旅団は、常時城塞の通常兵力なのか。
「多いのか少ないのか、わかりませんね」
「これでも少ない方だ。
どんなに住民を優遇しても、ここから外へと気軽に出られるわけではない。無論どの領地でも住民は他領に気軽に出られる訳ではないがな。城塞はそれ以上に拘束を受ける。外部とのやり取りは全部、検閲が入るだろうしな。
兵士も巡回で入れ替わる上に一旦紛争となれば、ここも攻撃を受ける。
それも他の領地と変わりないが、他よりも逃げるのが面倒だ。」
私達はまず、ここの監督者である、今現在駐留している軍の偉い人に挨拶をするようだ。
「アッシュガルトの街は、どのくらい人が住んでいるのですか?」
ふと陰気な印象の街を引き合いに出す。
「地元住人は千人未満か。
他は三公領主の兵と、商売で一時的に留まっているか、交易の為に港に腰を据える余所者が殆どだ。」
北領の出身としては、その規模が普通なのかどうかわからない。
寒村ばかりの北には、宿場でさえも私には大きな街に見えた。
トゥーラアモンは領主の居城があったので、兵士も住民の数に入っていた。
あれでも領主が置かれる小都市としては、極小らしい。
なので簡単には、この港街が繁栄しているのか寂れているのかわからない。
「一般的な農耕地域にある村と比較すると多めの数に思えるだろうが、東回りにある港街としては極小だろう」
とは騎士殿の言葉である。
それを引き継いでクリシィが続けた。
「アッシュガルトの住民は、東でも独特で閉鎖的だと言われているのよ。彼らは三公の共同支配地に置かれた者、逆に言えば三公爵だけの住民ではない。
昔からここに暮らしていて、時として支配者が変わる度に所属が変わったからでしょうね。
彼らは王国民であり三公の支配地の者でもあるけれど、アッシュガルトの漁民と区別されているの」
何となく理解した。
アッシュガルトの権利を長く争いあった結果、地元住民はどこにも所属できずに浮いたのだ。
余所者は余所者であるし、東の他の地域の住民からは差別されているのだろう。
そのような世間話をするうちに、馬車は戦砦の門へとついた。
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