第165話 真偽の箱 ②
言葉は深刻そうだが、サーレルはヘラヘラと笑った。
「ここからは、この子の意見を優先しましょう」
「どういうことでしょうか?」
「カーンの命令は、その子の安着を見届けろ、です。」
「安着?では、ここに着くまででは」
「安着とは、この子の人別があるであろうトゥーラアモンではありません。
ここは問題のあった村を放置していた侯爵の街です。
本当に知らなかっただけかもしれませんが、無関係とも思えません。
私は、人の善き部分を見て生きる神官様ではありませんからね。
人別の街で役人に引き渡すだけの、お使い仕事をするつもりはありません。
生き証人を放置するほど間抜けでもない。
カーンが言う安着とは、少なくとも命を脅かされないと確認できるまでです。
つまり、私の休暇はここで終わりです。トゥーラアモンにも名物があるといいのですが。」
生き証人。
その言葉に今更ながら、
私は、生き残って良かった。と、だけ考えていたのかもしれない。
そんな私の後ろでは、エリが、じっと聞き入っている。
「仮初ですが、私が二人の保護者となります。
そうすれば、例え人別がどこにあろうとも、何者も口出しも手出しもできません。
存分に、ここが住みやすい場所かを見極めることができるでしょう。
大丈夫ですよ。
私でも侯爵程度なら処理する許可はいりませんから」
さすが
***
兵の一団は、中に入る者も調べていた。
だが、近づいてみるとどうやら、中に入る者ではなく、出ていく者に厳しい調べをおこなっている。
それで、中に入ろうとする商人や荷車が列になっていたのだ。
私達は馬から降りると、サーレルを先頭に列の最後尾につけた。
街へ入ろうとする者へは普通のあらためのようだ。
手形と所持品の検査と、会話を通しての状況確認だ。
小さな村では無い。
大きくて古い街なんだなぁと思う。
宿場でも驚いたのに、今度は見るからに整った大きな街の凝った境界門だ。
鋳造技術も良いのか、装飾は葡萄の葉や実が象られている。
待っている時間も長いので余計なことに目がいってしまう。
そう手形と言えば、私の手形が通用するのは、北と西の王国領地だ。
これは辺境伯家が出す本式の領民手形であるので、広範囲の出稼ぎができる融通の効いた物だ。
きっと爺婆が家来衆に頼んでくれたんだろう。
カーン一行を連れて行く報酬だと思う。
この手形には、人別と領主の認め焼印に、基本の税率が記されている。
税率、主に通行税の税率に問題があったら、人別のところに問い合わせして欲しいという内容だ。
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