第166話 真偽の箱 ③

 通行手形の表記は三つになる。

 ひとつ、人別・身元の証明。

 ふたつ、徴収できる基本税。

 みっつ、移動目的。

 木板に焼印で記されており、そこに小さな銅板の北方辺境伯の紋章がつく。

 二つに穴をあけて、紐が通され首から下げたりもできる。

 裏表記は身体特徴だ。

 人種、性別、誕生年、外見の特徴となる。


 私の場合は、

 北方辺境伯領直轄地人別

 基本税率・下の五(上中下に五の段階があり、下の五は一番低い税率)

 北部西方地、旅稼ぎ

 との表書きだ。

 人種や年齢はあまり当てにならないので、大凡の確認は目や髪、肌の色で見るようだ。

 オルタスは多様な人種外見があるので、それこそ神官でもない限り何の種族かなどわからない。

 混血も多いしね。

 この位なら偽造もできる。

 でも大凡の者は偽造しない。

 その街々の領主の定めた掟には、必ず居住するなら許可が必要だし、滞在の期限は決まっている。

 殆どの北と西の街、例外を設けている南方方向以外、この許可と期限があるのだ。

 そしてこの許可と期限を偽ると、殆どの領主令が死罪と定めている。

 これは治安が悪く教育水準が低いため、罪を犯す、領主の命令に逆らう者は全て一律死罪としていた。

 まして、国の定めた人別帳の決まりを偽る事は、反逆者と同等とされる。

 盗みで労役刑などになるのが普通でも、その地域の領主が死罪とするならその刑は執行されるのだ。

 オルタスの法律上、地方領主の権限は、自領内にての刑罰の独断執行を認めている。

 例外は貴族と兵隊だ。

 それも重罪を犯している場合、処刑後に届け出るという事もできた。

 代わりに中央のお調べが入る。

 今回のように、始末する輩が来る場合もあった。

 それ以外の、領主が抱える民や、人別から外れた他領の犯罪者を裁くことは領主の権限だ。

 だから、盗みも火付けも殺人も、皆、一律死罪として定めても、中央からは咎められないのだ。

 因みに南方方向は、流浪民と難民が王都までたどり着けない場合、身元証明が無くとも人別を新たに作り職をあたえる自治領がある。

 これは南部獣人領の一般住民の治安維持能力が突出して高いからだ。

 例をあげると、普通の御婦人と見える人が盗人の頭を潰すぐらいの戦闘能力をもっている場合もある。冗談ではなく本当の話、怖い。

 もちろん、見た目と中身が釣り合っている人が殆どである。

 けれど見た目を裏切る、暴力に対抗できる人員が混じっているとしたら、犯罪者も二の足を踏むだろう。

 ともかく人族のお国柄とはまったく違うらしい。



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