第164話 真偽の箱
やがて陽射しが高くなる頃、木々の向こうに低い石積みの壁が見えた。
「トゥーラアモンの境界壁ですよ。
低く見えますが、長さを考えれば良くできています。
人が乗り越えるには高く、獣が避ける厚みがある。
それに石そのものが複雑に組まれていますね。
一部を崩すと崩した者の方へと崩落するようになっていますよ。さすが歴史のある街ですね」
「街全体を囲っているんでしょうか?」
「主だった民の暮らす場所は囲っていますが、侯爵の城館は堀の中、小城塞ですね。これは街の境界壁で城壁ではありません。所々は川などで途切れていますよ。
それでも十分な境界壁です。
侯爵は良く土地に手をいれ金を使っているのでしょうね。」
道は壁に沿って東へと切れている。
人が出入りしている場所が、その先に見えた。
街への出入り口だろうか。
宿場とは違い、立派な金属の大扉に兵隊達がいる。
門番ではない。
物々しい兵隊達がいた。
「妙ですね」
サーレルが馬を止めた。
門までは距離があり、私達の姿はまだ気が付かれていない。
その門には、人の列ができていた。
「なんですか?」
「普段とは様子がちがいますね。
いつもなら、枯れた老爺の門番が数人、税を徴収する暇仕事をして座っているぐらいなんですよ」
多少は隠して欲しい。
聞き返すのを待っていそうだ。
だが、私が何も言わないので、彼はニッコリ笑顔を浮かべると馬を後退させた。
「聞いたところによると、古都トゥーラアモンは、領主の城館以外は開放されているので、旅人が立ち寄りやすい街なのです。
その小城塞に主だった氏族と家来衆、それに兵力を置いているので、その外側の街には重きを置いていないともいえますね」
彼はちょっと考えるように続けた。
たぶん、子供に言ってもわかるだろうか?と考えていそうだ。
「商人が立ち寄りやすく、それでいて何か軍事的な衝突等が起きた時、街自体を荒らされてもよいような作りにしているのです。
この石積みの境界壁は、一番最初の足止めとしての用途。
だから崩れやすい作りになっている。
あの入り口から住人の暮らす部分まで、櫛の刃が並ぶように、馬などが乗り越えられない低い壁が層に置かれているんですよ。」
「本来は、あのように出入りを調べていないので?」
「境界壁では通行税を徴収する街の者がいるか、精々治安の兵士がいても数人。侯爵の兵士であろう者達がああして出張る理由があるのでしょうね」
「宿場で、青馬が出たと」
「おや、聞いていましたか?
どうなんでしょう。
どちらにしろ、嫌な予感しかしませんねぇ」
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