第215話 真実という名の欺瞞 ③

 シュランゲの秘伝は、血族の血にある。

 亜人の村でありながら、この村の氏族には長命種の子供が産まれるのだ。

 先祖に長命種の血が混じっており、稀に先祖返りの子供が産まれる。

 それが同氏族の中で婚姻を繰り返すと特にでる。

 これを隠され子として、村で育てるのが決まりだ。

 長命種は長命種どうしでなければ、血統が保てない。

 というのは、正しくない。

 子が産まれるのだ、長命種族として産まれる割合が少ないだけなのだ。

 長命種族が他種族との婚姻を望まないのは、確かに種として子供を残す場合致し方ない話なのだ。

 良い悪いではない。

 生きる時間の違いは、多くの摩擦と人生の困難を子供に与える。

 だから、どうしても同じ種族でと願うのは、別に差別や区別からの考えでもない。

 子になるべく平らかな人生をと願うのは、普通の事だ。

 ただ、アイヒベルガーとシュランゲの村では、別の事情もあった。

 シュランゲの血族婚は、閉鎖環境とアイヒベルガーの掟の為だ。


「気がついているだろう、供物の女。

 エリはアイヒベルガーだ。

 シュランゲで産まれたアイヒベルガーだ。

 侯も目にして気がついたろう。

 同じ氏族の子だと。

 隠され子が生き残っていたと。

 これでアイヒベルガーは残ると。

 未だに、あの頑固爺は間違いを認めないだろう。

 内心、孫をも失って泣いていようともな」


「村の者と侯爵の氏族は同じなのか?」

「正確には違う。

 ただ、成り立ちが同じなのだ。

 だから、同じく古い血故に、侯の息子達も特殊だ。」


 亜人の村に産まれる長命種族の子供。

 これと同じことが、古い古い長命種のアイヒベルガーにもおこる。


「外見上は長命種族だが、中身が短命人族、亜人よりの者が産まれるのだ。

 シュランゲとは逆に、こちらにも亜人の血が入っているからだ。

 後は、わかるだろう?

 イエレミアスもグーレゴーアも、長命種の外見を持った亜人よりの短命種人族だ。

 アイヒベルガーは長命種の家長が必要だ。

 どうしても必要で、侯は認める事ができなかった。」


 苦しい話だ。

 私が息を吐くと、エリは手元の玉に又目を落とした。


「二人の母親は氏族の女性だ。

 だが、侯は原因を彼女にあるとした。

 彼ほど古い血筋はなかったから、誰もその意見を疑わなかった。」

「でも嫡子とした」

「侯は、彼女が不貞をしたとは思っていない。

 自分に原因がある事を知っている。

 質がわるかろう?

 そしてなにより、息子達には、本当の跡継ぎができるまで何も言わなかった。

 いずれ成人後には、露見する嘘だと思っていたのかもな。

 侯よりも先に死ぬのだから」


(親の情より、頭領としての義務を先にしたんだよ。

 親として失格だけれど、侯を責めるのは正しいと思うかい?)


「トゥーラアモンの青馬侯は、長命種でなければならないんだとさ。

 グーレゴーアは成人になると廃嫡。

 イエレミアスは仮の嫡子として、侯に仕えた。

 俺は、イエレミアスの従者として、シュランゲの者として、それでもずっと側にいるつもりだった。

 けれど、そこまでならグーレゴーアも心を抑えていられたんだ。

 彼奴の嘘を信じるまでは」

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