第214話 真実という名の欺瞞 ②

「婆様の弟子が薬をすり替えた」

「毒を中和する薬をか」

「中和する薬に眠り薬を混ぜる手はずだった」

「違ったんだな」

「最初から、あの嘘つきは全部消すつもりだったんだよ。

 婆様の教えを乞うておいて、村のすべてを蔑んでいた。

 自分は捨て子で、高貴な血が流れていると、子供の妄想を頼りにしていた。

 ただの憐れな子供だったらよかったのにな。

 閉じられた世界を厭い、外は素晴らしいと信じていた。

 それだけならばいい。

 確かに素晴らしいだろう。

 だが、親兄弟の暮らす地を蔑む必要はないじゃないか。

 捨て子?

 村に捨て子なんていない。

 外へ出る?

 出てもいいさ、約束を守ればいいだけさ。

 誰も傷つける必要はない。

 誰を下に置く必要もない。

 毎日が楽しくなくたっていいじゃないか。

 奪う必要も、傷つける必要もなかったんだ。

 なのに、嘘つきは心底、村を村人を嫌っていたんだ。

 わかっていた。

 でも、それは賑やかな場所に憧れる気持ちだと思っていた。

 華やかさや贅沢を望んだだけだと思っていた。

 家族だ同じ氏族だと認めると、村から永遠に出られない。

 そう思っていたんだろうな。

 ただ俺も皆も、少なからず、そんな考えを仕方ないと思った。

 憐れだと思った。

 それが間違っていた。

 毎日毎日、嘘を重ねているうちに、彼奴は本当の事がわからなくなっていたんだ。

 俺達は、それに気がつけなかった。

 皆、自分の傷ばかりに気をとられていた。

 だから、許してしまった。

 結果はどうだ。

 誰も救われなかった。

 グーレゴーアの子も死なせてしまった。

 イエレミアスもだ。」

「イエレミアスとは朽ちぬ嫡子か?」


 それに青い男は笑った。

 情けない顔をして、エリを見る。


「誰も彼も悪かったのさ。

 けれど、イエレミアスを殺したのは、彼奴の嘘が元だ。

 自分の娘を捨て結果として殺してしまったのも、彼奴の嘘が元だ。」

「それは誰?」

「誰だと思う?

 もうわかっているだろ。

 婆様の弟子で、俺達の幼なじみさ。

 グーレゴーアもイエレミアスも俺も、彼奴も。

 友達だった。

 夏至の祭りで出会ってから、大人になって人生が分かたれても、友達だと思っていたよ。

 でも、人は変わる。

 良くも悪くもな。

 俺達は、欲で歪んだ。

 結果、トゥーラアモンは、死の街になるだろう」

「この毒でか?」

「違うよ」

「なぜ、トゥーラアモンを?」

「侯が、孫を受け入れていれば。

 侯が、息子達を認めていれば。

 誰も、死ななかった。

 始まりの嘘は、アイヒベルガーからだ。」

「嘘とは何だ?」

「短命種人族と長命種人族の混血は、すべて短命種である。

 亜人と長命種人族の混血は、すべて亜人である。」


 青い男は、エリを指さした。


「エリは村の子だ。

 亜人の集落の子だ。

 親兄弟すべて亜人の子だ。

 嘘は無い。

 外から来た誰かの子では無い。

 二親も知っている。

 実の子だ。

 村の誰もが認めている。

 亜人の親から産まれたの子供だ。

 だから、何だ?

 そうだよ、だから何だ。

 子供は子供だ。

 皆、嘘つきは死ねばいい。

 子供を殺すような嘘は、消えちまえばいいんだ」

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