第213話 真実という名の欺瞞
「何がおこるんだ?」
私の問いかけに、腐れた男達は答えない。
エリは、抱えた玉を撫でている。
(僕が答えようか?)
「やめろ!」
私は膨れ上がる疑問に答えを求めた。
だが、それでもこれは、彼らへの問いだ。
関わりがない。
と、先程までの自分なら逃げた。
だが、あの老婆は言った。
『御同輩』
なるほどと、思う。
以前の私。
供物になる前の私なら、恐れた。
だが、今は違う。
死者を恐れる事はない。
恐れるべきは己だ。
人の道から外れてはならない。
恐れよ、恐れよ、恐れるべきは己なのだ。と、言い聞かせる。
さもなくば、身の内のモノどもが、嬉しげに動き出してしまう。
視線に力を込めて問う。
今の私は、呪術師から見れば、仲間なのだ。
「何がおこる?」
もう一度、問う。
それに青い男が答えた。
「俺達は、禁忌を犯した。
だから、報いを受ける。
当然の話だ。
悪い事をしたら、罰が下る。
誰かの頬を殴れば、殴り返される。
何かを盗もうとすれば、奪い返される。
婆様は、盗人を呪った。
勝手に持ち出したら死ぬ。
神の許しを得ぬならば死ぬと。
最初から、婆様は皆に言っていた。
約束を破ったら死ぬと。
約束を破った者だけじゃない。
すべてがだ。
罰は皆に与えられる。
村人を殺した者。
人殺しを唆した者。
原因となった者。
そしてそれらを含め繋がりのある者すべてをだ。
すべてとは、罪を知らぬ者、同じ土地に暮らす血縁もなんだよ。
皆に、死が訪れる。」
腐れた姿に、普通の男の姿が重なる。
「なぜだ?罰なら盗人や唆した者だけでいいはずだ」
「婆様は、約束を果たしているだけだ。
盗人どもが死んだとて、神の怒りは解けない。
だから、婆様は呪うのだ。
だが、誰一人として、その約束事を本当は信じていなかった。
皆、本当は信じていなかった。」
「村の長が言う約束なのにか?」
「誰でも自分に都合のいい事だけを信じるんだ。
それに皆、嘘つきばかりだった。
だから、婆様の言葉も軽んじていたんだ。
昔話みたいなもんだと思ってたんだ。
信じていたし信じていなかったんだ。
家族だからと許されると思っていたんだ。
あぁ無様な言い訳ばっかりだ。
俺たちは救われない。
救われなくていいんだ。
ごめんな、エリ、ごめん。言い訳ばっかりだ」
エリは玉から顔をあげると、青い男を睨んだ。
(謝ってほしくないんだよ。彼だけは、この子の味方だったんだ)
「何があった?」
「俺は、グーレゴーアが苦しんでいるのを知っていた。
そしてイエレミアスもだ。
だから俺もグーレゴーアもイエレミアスも、嘘つきの語る
馬鹿だったよなぁ、明日なんて来ないのにな。」
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