第212話 婆様
水路の奥に開けた場所。
四方から水が流れ落ちている。
浅い湖のように広がり、中央から放射状に道がある。
中央には水の上に皿のような台座が突き出していた。
その台座には、人の頭ほどの、金属の大きな玉がある。
二つ?
台座には三つの皿。
ごうごうという水音の中、腐れた男は玉に近寄ると何も置かれていない皿に角灯を置いた。
『ばばさまー
ばばさまー
もどってきたよー
あのニセモノじゃないよぉ
これでやっと、あいつらをころせるよぉー
はやくぅはやくー
くるしぃよぉーはやくー』
空気が震える。
重くすべてが撓む。
すべてが無理やり曲げられる。
凄まじい圧力と理を引きちぎる感覚に体が痛む。
(来た)
地響きと共に、通路にソレが顔を出した。
(息を吸って)
ソレが消える。
圧力が消え去ると、影が残った。
巨大なソレが消え、小さな影が蠢く。
うぞうぞと蠢くそれは、手のような影を伸ばすと、台座に近寄り玉をとった。
そして玉を抱え、私達の方へと
顔を出したモノのお陰で、体が痺れて動けない。
影はエリに玉を差し出す。
差し出された玉は、とろりと溶けた。
溶けて形を変えると、エリにも持てる小さな一つの玉になった。
手を出せと影が促す。
何故か、とても人間らしい動きだ。
ほら、手をだしな。
そんな風に促され、エリは玉を受け取った。
そこでようやっと、私の体から痺れが抜けた。
息を吸い、影をよく見る。
枯れ木のような老人だ。
骨と皮の老婆だ。
その眼球は落ち窪み、エリが玉を受け取ると何事かを囁いた。
それからゆっくりと私を見る。
『すまないねぇ、御同輩
ちょっとばかり、見逃しておくれな
元に戻すには、だいぶ命が必要だ。
刈り取って捧げないと輪が閉じないんだよ。
本当に歳はとりたくないもんだよ、ざまぁないさね。
まぁ人間なんざ、生まれた時から罪人だ。
お前さんは助けたいかも知れないが、
これは必要な事なんだよ。
あきらめてもらうしかないねぇ。
まぁ、簡単に言やぁ、私らは許されちゃならんて話しさ。
誰も彼もね』
そういうとやけに楽しげに微笑んだ。
微笑み、影は霧散した。
『ばばさまー
やっぱり、あいつらしなないとダメなんだね
わかったよー
みんなーいっしょだー
じゃぁまってるよ
ひとつなくなってるからねー
だれかが死なないとねー』
水の中から、次々と腐った死体が起きあがる。
青い男と同じ腐乱死体だ。
それらは水の中から這い上がると、私とエリを囲んだ。
囲んで、あの台座に促し座らせる。
腐った男達が立ち上がった水は、暗い色から徐々に赤く変色した。
『これでぇこのまわりの街も人もー
いっしょだぁよぅ
みんなーみんなぁー俺達といっしょ
うそつきは、みんなぁいっしょだよ』
目に映る水は、すべて赤く染まった。
「どうして、毒が?」
(呪術師は秘密を守るために呪いを広げたのかな?
彼女は、悪い事をした人達に報いを与えようとしているのかな?
そもそもこの毒は、何だろうね。
なぜ、たくさんの人が死なねばならないと思う?
皆、ウソつきだね。
ウソをつかないのは、口のきけない子供だけだ)
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