第146話 宿場の夜 ③
様子を見ながら飴を含ませ、携帯食も取り出す。
エリは水を飲み飴を転がすと笑顔になった。
腹を下してはいないか、気分は大丈夫かと聞くと彼女は笑顔で頷いた。
どうやら大丈夫そうだ。
ただ、携帯食はいらないと断られる。
確かに塩と干した穀物を固めた物で、本来なら湯で柔らかくしてから食べる。齧るのは塩分がたりない時でいいような代物だ。
私も飴を含むと水を呑んだ。
それほど疲労はしていないが、外に出られた安堵から、少し気だるく感じた。
と、そこでいつの間にか隣にしゃがむ男を無視できずに見る。
「どうしました?」
「それ何だ?」
「飴ですよ。手作りですので、飴のような物でしょうか?」
「くれ」
「子供ですか」
「くれ」
遠慮なく、くれくれと言うカーンに、小さな塊を渡す。
飴といっても、町場の菓子とは違う、ただの煮凝りだ。
何が珍しいのかしげしげと眺めると、男は口に含んだ。
蜂蜜に黒砂糖、蓮華の香りに腹に良い薬草が入っている。
それを煮込んで固めた物である。
美味いかと言えば、甘いだけだ。
「うまいなぁ、ちびっこ、うまいよな」
エリに話しかける。
彼女は大きな男が飴をガリガリかじる姿が面白かったようで、笑っている。
「もっとくれ」
「駄目です、腹が弱ってるエリの分です」
「宿場で菓子を買ってやるから、俺にもくれよぅ」
「いい大人が、我慢なさい」
思わず叱る。
叱ってから、あぁ鷹の爺の孫じゃなかった、拙いと思う。
思うが、カーンは怒らずニヤッと笑ってみせ。
そしてエリの方を向いて、口を尖らせた。
「ちびっこ、宿場についたら小遣いやるから飴を少しくれよぅ」
それにエリは口を押さえて笑った。
カーンも笑うとエリの頭を撫でる。
どうやら、子供を気遣ってかまいに来たようだ。
「だからもっとくれ」
まぁ気遣いはあるが甘党でもあるようだ。
エリが笑顔になるならいいかと、残りはエリとカーンで半分に分けて渡した。
そんなやり取りの後、再び東に向かう。
私の馬はだいぶ疲れていたが、背後に迫る寒気がわかっているのか、賢明に男達の後を追い続けた。
***
初めての宿場だ。
生まれて初めての宿場である。
薄暗い夕暮れなのに明るい。
灯りが多い、すごい。
丸太を地面に突き立てた塀が町を囲んでいる、すごい大きい。
城壁のような石積みではない。
代わりによじ登れないほどの高さだ。
夜には街道に向き合っている門は閉じられる。
そして門の上には見張り台が据えられていた。
お堀は無い。
私からすれば、大きな街に見えた。
実際は小さな宿場であり最低限を満たす程度の町とのこと。
その為、エリを預けるような役場も無く、領地支配を代行する代官もいない。
あるのは簡易の伝令所と領主兵の詰め所、町の住民の集会所ぐらいだ。
宿場としては、拝火教の寺院と宿屋、馬車屋に食事処、酒場が町の中心を囲むように並んでいた。
特に酒場は大店で、遊興の店も何軒か連なる。
町の者に聞けば、殆どの宿場の店は地主が経営しており、あとは外から呼んだ商売人だそうだ。
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