第200話 不憫なるモノ

 予想していたのは、ごく普通の田舎の御婦人だ。

 だが、現れたのは、氷のように美しい女性だった。

 息をしているのか?

 と、疑いたくなるような、彫像のように美しい女性だ。

 奥方は、男達と挨拶を交わすと席についた。

 髪色は薄い金髪で、瞳は薄い空の色だ。

 外見は長命種人族に

 だが、主軸は亜人種寄りの短命種人族だ。

 亜人に傾かなかった特異型だろう。

 と、にはすぐにわかった。

 高い頬骨にすっと通った鼻筋。

 すらりとした容姿と相まって、ひんやりとした雰囲気だ。

 エリの事を説明すると、彼女は悔やみの言葉を述べた。


「ですが、申し訳ないのですが、わたくしではお役にたてないでしょう。

 シュランゲの出と申しましても、私自身は彼らと血の繋がりも縁もございませんし」

「おや、奥方はあちらのご出身と聞き及びましたが?」

「私、出は北ではございませんの。

 元々シェルバンの氏族を頼り西から東へ向かうはずでした。

 途中、砂漠の病毒の療養の為に、村に一時身を寄せておりましたが。

 それがアイヒベルガー侯とのご縁となりました。」


(面白いだよね)


 下げていた視線をゆっくりとずらす。

 冬の陽射しが射し込む窓は、高価な硝子だ。

 彼女はエリに同情したように表情を曇らせ声を震わせる。


(因みにシェルバンは、西から東に渡ったの一つだね。

 強硬な長命種のの一族なんだよね。

 よりにもよって、その名前だしちゃうんだ。

 これ誰も突っ込まないから、僕、どうしたらいいんだろう?

 まさか、君まで何がかわからないとか無いよね?)


 どうやって神官をだました?


(おっと、解禁かい?

 あぁわかっているよ、子供の為だね。

 じゃぁこれからは、ちょっとした内緒話をささやいていこう。

 神官ね、神官を騙せるほどの嘘はつけない。

 だから答えは、騙せていない、だよ。

 

 彼女は次男と結婚した。

 次男だから、結婚できたんだ。

 ちょうどいいってね。

 馬鹿なヤツだけ騙されるのさ。

 その点、芯から冷徹れいてつなアイヒベルガーは、騙せない。

 お陰で血の雨が降るのさ)


 聞きたくなかった返答が返る。

 だが、エリにかかわる事だ。

 自分の恐れなぞかまっていられない。

 汚れでくもる窓硝子は、鏡のように室内をうつす。

 使用人は家具と同じと思っているのか、隠したはずの事がよく見えた。


 彼女はさも悲しげに目元を手巾でおさえる。

 涙などないのに。

 彼女はエリを見て、悲しみをこらえたわけではない。

 男達からは見えないが、窓硝子にうつるのは同情でも悲しみでもない。


 彼女は、エリを見て、口元を歪めた。

 あぁ嫌な者を見たと。

 そして次には笑いを堪えるように唇が震えた。

 男達からは、嗚咽を堪えているように見えるだろう。

 だが、彼女は嘲笑を堪えようと必死に体に力を入れている。

 何か、楽しい事があるのだろう。


 あぁ嫌な者を見た。

 と、私も思った。

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