第347話 幕間 内緒話 ③

「この話をお前にするのは、彼女を守ってほしいからだ。」

「軍で預かるって事か?」

「違う。

 獣王家モルデンに守って欲しいんだよ。」

「どういう事だ?」

「まず、1つ目だ。

 彼女の種族を探している奴らが複数いる。

 彼女は金になるんだ。

 一部の者は、彼女の種族そのものに価値を見出している。

 そしてその原因が懸賞金だ。」

「なんだそれは、聞いたこともないぞ」

「代替わり時の公王勅令だ。

 保護した者に金を出すとね。

 公王の知己に精霊種がいてな、その親族を探している。

 本物であれば、莫大な礼金をはずむとね。」

「どういう企みだ?」

「企みじゃないんだよ。

 あの男にしては、普通の善意なんだ。

 だが、この勅令によって精霊種の生き残りは素性を隠して散逸。

 考え無しは、精霊種を探して血眼になった。

 ただ、これも多くの常識的な者達は関わらないとした。

 申告の殆どが偽物だったし、精霊種を探してろくでもない事が多発した。

 すでに絶滅しそうだという少数の生き残りでさえ、身を隠して出てこなくなった。

 公王も勅令を取り消すことはなかったが、結果を見て、精霊種に不法行為をした者を処刑した。

 この騒ぎも昔話だ。

 だが、長生きな奴らはいるし、馬鹿はどこにでもいる。

 神殿が、彼らの出生を知っても、何も記録に残さずにいるのは、我々が彼らを殺すような事を二度としたくないからだ。」

「獣人の子供を浚う奴と同じのがわくんだな。」

「今、それやると死ぬけどな。

 まぁそうだ。

 公王以外でも、貴種だとして欲しがる者がいる。

 そういう奴らを釣る目的で、勅令を取り消さない部分もあるんだ。

 今、精霊種を見つけました。と、誰かを献上したら経緯によっては死刑だ。」

「それはそれで理不尽だな。勅令を解けよ」

「当時を知っている奴は、この勅令が罠だってわかってるからいいんだよ。

 そして2つ目だ。

 腐土がらみの事で、彼女は危うい立場だ。

 真っ当な人の暮らしができなくなる可能性があるんだ。」

「殺されるとでも?」

「違う、生き神認定だよ。

 俺だって嫌なのに、普通の子供には絶えられない暮らしになりかねない。」

「それほどの貴重な種なのか?生意気なガキだぞ」

「それほどなんだよ。

 彼女が拾われ子として育った。と、言っていたろ?」

「村のガキと変わらん様子だった。」

「北の村の人間が、彼女がどのような種族かわからないと思うか?

 だからこそ、普通の子供に混じらせて、村の労働力にしていたんだろう。

 教育だって施した。

 辺境地の子供が、あんな礼儀正しいと思うなよ。

 お前のガキの頃を思い出せよ、鼻垂らして、その辺の芋虫を枝で突き回してただろ」

「あいにくとそんなガキの時代はねぇよ。飢えて食い物探して山を徘徊してたな」

「すまねぇ、お前、普通の貴族じゃなかったの忘れてたわ。

 話は戻るけどよ。

 彼女はわざと孤児のままだったんだと思う。

 誰かの家の子供にして、貴族から強要されたら渡す事になる。

 領主だって口を噤んでいたんだろうさ。立場の強い人間が出てきたら、知らぬふりして逃しちまう気でいたんだろう。

 目の前で、滅んだ種族の生き残りだ。

 同じく罰当たりな事をして、死んで責め苦を受けるような事はしたくなかったんだろう」

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