第346話 幕間 内緒話 ②

「そもそもどんな兵器で凍りつく?

 元々活火山帯があの山の向こう側に広がっている。

 大規模な噴火活動がおきるならわかる。

 もちろん、自然がやり返してきたんだから予想外はあるだろうがよ。

 蛮族の侵攻?

 西の国々や山向の異種族と関係が悪化し戦争状態?

 そりゃぁ中央は戦争大好きだが、当時の小競り合いに、環境改変するような兵器投入をどうやって許可したんだ?

 でもよ、色々、面倒な事を抜いたら、誰があれを作り出した?」


 答えを口にしようとして、カーンは考え込んだ。

 言葉にして良いのかと迷う様子に、ジェレマイアは頭を振った。


「お前も知ってるアレだな。

 気にするな、俺は気にしない。

 でだ、当時の行軍記録は残ってる。まぁ五十年以上前の話だが、アイヒベルガーなら当時生きてる奴も現役だろう」

「それが何の役にたつ」

「公王代替わりまで、目的不明の出兵記録がある。

 場所は、西、東、南、北の順番だ。

 西は、お前もよく知っている砂漠地帯だ。

 次が、東、これは鉱山視察も兼ねていた。

 南は、南領の方で記録が残っているだろう。

 そして北だ。

 何れもお題目はある。

 だが成果も戦果も無い、ただの物見遊山だ。

 記述が抜かれているってのもある。

 当時の元老院議員が耄碌していたか、欲に目がくらんで自重できなかったか。」

「それと何が関係あると」

「似ていると思わないか?

 一人の頭のオカシイ男が目的不明の行軍をすると、土地が住めなくなる。」

「だが、腐り落ちてはいない」

「そうだな。

 けれどな、蛮族どころか、あの山にも中央王国の民が暮らしていたんだよ。

 沢山の人々が生きて暮らしていた。

 それを馬鹿が逃しもせずに殺したんだ。」


 フリュデンの大きな屋敷のひとつ。

 ジェレマイアが仮住まいとしている建物からは、北の山々と焼け残った緑が見える。

 人払いはされ、神殿騎士が屋敷を固めており、きわめて厳重な警護がなされている。

 カーンは、祭司長が見る外の景色に同じく視線を投げた。


「彼女はね、あの山の子だよ。

 あそこに暮らしていた種族の子供だ。

 親は死んだのさ。

 頭のオカシイ一人の人間の行いでな。

 そしてだ。

 彼女のお話で、つながるんだよ」

「どう繋がる?」

「俺は言っただろ。

 グリモアは正しい場所にあった。ってね。

 グリモアは北にあった。

 正しくは、北で行方知れずだ。」

「争いの場に、そのグリモアの所有者がいたって事か?」

「それはわからないが、グリモアの正しい持ち主は、あの北の山に家族がいたのさ。

 一族郎党、あの山に暮らしていた。

 行方知れずになったのは、山が凍りついた頃だったらしい。」

「滅ぼされたか」

「蛮族の侵攻なんぞなかったって思ってる。

 ただな、それにしても何故、今更、腐土ができた?

 何故、ボルネフェルトは与えられた?

 今更の凶事がどうしておきたのかわからない。

 なら、これからも続くと考えるべきだろう?」

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