第345話 幕間 内緒話
「で、毟り取ったのか?」
悪びれる事無く悪態をつく男にジェレマイアは肩を竦めた。
窓辺から離れ、カーンを促すと室内の簡素な椅子に座る。
「多少の圧力だけだよ。今回は毟るよりも、ここを北での活動拠点にする事で手をうつ。
ここで健全な人の営みが行われる事が重要だ。
腐土なる荒廃が広がる事はあってはならない。
援助も神殿が全部という訳ではない。
公王も今回の事が、件のボルネフェルトの行いと無縁とは考えていないからな。」
「つながりがあると?」
「そもそも神殿側では、ある程度の予想を幾通りか考えていた」
「何の予想だ?」
「どこに腐土同様の異常事象が出現するかの確率予想だ。俺はボルネフェルトが再び南に下るとしたが、他にも複数の予想が出されていた。
北と予想したのは神殿長だ。」
それにカーンは、暫し考えると言った。
「つまり、今後も異変が起こり得ると?」
「腐土のような環境改変は、発見しやすいだろう。けれど小さな綻びは見落とされがちだ。
これに対応するには、普段から人のやりとりを頻繁に行うしかない」
「巡検使や渡り神官のやり取りを増やすか。
まぁそれはいいが、どうやって予測している。その根拠は」
「腐土とは何だと思う?」
「そりゃぁ、人の住めねぇ場所だ。簡単に言えばな」
そのカーンの答えに、ジェレマイアは表情を緩めた。
「お前は馬鹿で狂った振りがうまいから、ちょっと騙されるけどよ。答えはちゃんといつも用意してるよな。俺、尊敬するよ。
答えを考えてるから、いつも決断が早いよな」
「馬鹿にすんなよ。
そうじゃなかったら人を使って殺し合いなんぞできねぇよ」
「まぁそうだな。
それでだ。
お前の答え道理、腐土とは人の住めない場所だ。
これを王国では何と言う?」
「絶滅領域だな。子供でもわかるぞ」
「いや、わかっていない。
腐土は絶滅領域だ。
繰り返すぞ。腐土は異常なことばかり起きているが、つまるところ絶滅領域だ」
それに何かを言いかけて、カーンは口を閉じた。
「過去、絶滅領域が出現した条件は様々だ。
だが、人為的な事柄が原因だと明確に記録されている場所があるなら、それを調べるのは当然だろ。
そこで我々は一番新しい絶滅領域が、なぜ出現したかを精査した。」
「..北だな」
「そうだ。ここから見える北の山々。
異種族の侵攻を抑える為に使われた兵器による、北の絶滅領域だ。」
カーンは口を閉じた。
それにジェレマイアは、椅子の背に体を凭れかけると続けた。
「絶滅領域になりかかった事案は、結構あるんだよ。
それを今一度精査している。
そして北は、焚書で記録が飛んでいる。
俺の見解としては、今回の腐土と同じじゃないかと踏んでいる」
「公王は何と?」
「ひとつだけ断言できる事がある。
我々、俺と神殿長の意見と公王は同じでな、焚書を免れた記録で改変されてない部分を調べている。
で、今一番アツイ話題があるんだよ」
と、言う本人は無表情だ。
面白くない事この上ないと。
「北の絶滅領域はどうしてできた?」
「蛮族の侵攻に、軍の兵器を投入した所、地殻の変動が起きたと聞くが」
「もっと単純に言うと?」
「戦争で荒れた」
「何かおかしいと思わねぇか?」
それにカーンは、唇を曲げた。
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