第344話 お礼? ④

「何だ、喧嘩しなかったのか?」

「先に梯子をはずされました。」

「呼び出しの内容は、こっちと同じか?」

「やはり若年層の氏族から反対意見が多かったようです。」

「まぁ予想されていたか、それでどうした」

「どうしたもありません。意見を通すなら、引退するので爵位相続をすぐに行うと脅されました」

「爺さんやるなぁ。どっちに転んでも爺さん的には問題ねぇもんな。

 弱腰の息子を頭領にできるし、嫌ならそのまま手元に置ける。

 で、押し負けたのかよ」

「それなら爵位相続しても、中央軍への奉仕はできると」

「おっ粘ったな」

「自分の政治教育がお粗末過ぎて、軍役に年月をとられるほうが致命的だと返されまして、そこから氏族の長老がいつの間にやら包囲を。どこからわいたのか、まぁ待ち構えていたようです」

「泣き落としか?」

「氏族の年寄り総出で騒がれました。雁首揃えて泣かれても。今までが今まででしたので、何を言っていいのやら」

「逃げてきたか。

 業突く張りどもの面の皮が厚いのは分かっているだろうに。

 嘘泣きなんぞ、無視すれば良いものを。

 まぁ確かに停戦時期だ。軍役奉仕で稼ぐには中々時間をとられるだろうなぁ。死ぬ確率は低いがな」

「今、神殿契約を見直すから、そう嫌がるなと祭司長殿が折衷案を検討していただいております。」

「まぁ端から向こうは言い出す内容の予想はついていたか。

 それでも爺も少しは考えるだろうさ。

 今は弱っちゃいるが、元は業突く張りだしな。

 軍役奉仕の時は、俺の方へ声をかけてくれれば配慮しよう」

「バルドルバ卿の御厚意、感謝いたします」

「気にするな。俺も荒れた領地を渡されたくちだ。

 金も出さねぇで文句ばっかりつけてくる奴らには辟易してるぜ」


 手をおろし、私とエリは彼らの会話する姿を眺めた。

 何となく滑稽だと思った。

 彼ら二人と私達は、同じ場所にいる。

 けれど、彼らと私達はとても遠いと感じた。

 彼らには、不思議な事がとことん似合わない。

 エリもそう感じたのか、指輪に笑いかけた。

 するとそれも、エリに笑い返した。

 くるりと巻き付いた蛇だ。

 指輪は蛇が輪をえがいた形をしている。 

 その愛嬌のある顔には小さな瑪瑙の瞳。

 それが時々、エリと私の方を見ては笑うのだ。

 チロリと舌を出し、ちらっと見てはニコリと笑う。

 さも、楽しいねぇ、面白いねぇとお喋りしていそうだ。

 上機嫌な指輪に対して、渡された私は困惑する。

 さても、祭司長には知られずにいられるだろうかと。

 悩みながらも、エリの寝台に体を伸ばす。

 そんな私の横では、エリは上機嫌で握ったままの手を振った。


『お名前、呼んでね。

 私の名前は、ナーヴェラト。

 ねぇ良い子にしてるから、名前をよんでね

 ...

 ...

 ...ふふっふふふ

 ..来るとき、至る場にて名を呼ぶのじゃ

 妾は、子供の安寧を望むもの。

 邪悪なる腐れた者共を喰ろうてやろうぞ。

 さぁ呪いを教えよう。

 対価を払えば、幼子の命だけは助けてやろう。

 ふふっふふふ..

 宴のおりは妾を呼ぶのじゃぞ、必ずな、必ず...』

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