第348話 幕間 内緒話 ④

 「そして3つ目、これが重要だ。

 腐土を作り出した男は死んだが、彼ひとりで為せる事ではない。

 これからも異常な事が起きると推測するのは、彼の他にもいるからだ。」

「ひとりだとは、誰も思ってないさ。

 ただ、調べて出てくるのは死人ばかりだ。

 だから今回は処分だった、違うか?」

「手助けした生きた人間も大勢いるだろうさ。

 厄介なのは、彼らは表面上は善き人々って奴なのさ。

 さて、ここでいう善き人々を、我々は邪教徒としている」

「まぁ神殿からすれば、そうだろうな」

「じゃぁ邪教徒ってのは、何だか言えるか?」

「神学は不得手だ」

「簡単でいいさ」

「悪い神の信徒だ」

「そうだな。

 悪い神を祀り、悪い行いをする者。

 これが世間一般の、邪教徒って意味だな。

 そいでだ。

 我々が邪教徒である。と、言う場合は、注釈が入る」

「クソ難しい言葉を使うんだろ?」

「いや、クソ難しくはないが、ややこしいんだ。ところで、彼女はどうした?」

「子供と一緒に寝ている。

 衰弱してるからな。

 ちょうどサーレルが戻ってきた。

 一緒の部屋でくたばってるから、護衛は大丈夫だ。

 で、続きを喋れよ。眠くてしょうがねぇんだよ。」

「お茶をもらおうか」

「これ以上は、飲めねぇや、飯が入らなくなる」

「そろそろ夕飯か。

 一緒に彼女たちも食べれるといいんだが。

 こっちは持ち込みだから、遠慮しないで食えるからな。後で、迎えに行ってくれよ。

 さてと、話を戻すか。

 我々の言う淫祠邪教いんしじゃきょうは、オルタスに在るとされる異教の神々を含まない」

「ん、よくわからねぇ、なんだそれ、一神教が何いってんだ?」

「わからねぇよな。

 この微妙にひっかけた言い回しな、ちゃんと教えにあるんだよね。

 じゃぁ子供らに言うお話風でな。

 昔からオルタスには、たくさんの神様がいる。

 けれど、すべての神様の本当のお姿はひとつなんだ。

 だから、祀られている土地ごとの神様は、どんな怖い神様でも、皆、神聖教の主様なんだよ。」

「うっへぇ、思い出した。ガキの頃に聞いた」

「じゃぁ邪教徒って何だ?」

「悪い神、あれ?」

「要約するとだ。

 俺達の世界で生まれた神は、どんな神でも同じ仲間だ。

 魔神と呼ばれる恐ろしい神も、病もたらす疫神も、この世の理の中に存在するならば、是なのだ。

 ところが俺達の世界を勝手に食って、盗もうとする別世界の神がいる。

 理の外の魔だ。

 これを崇め力を受け取る者を魔導の者という。

 理の外から与えられる力は、穢れ理を崩し、人を殺す。

 これを崇めこのオルタスを売払う者が邪教徒だ。

 当然、オルタスの神々の子である精霊種は、邪教徒と相容れない。

 ましてグリモアを宿しているなんぞとわかれば野蛮な奴らだ、力を奪おうと腹を裂くのが落ちだ」

「どんなキチガイだよ。ただの犯罪者じゃねぇか」


 憂鬱に構える祭司長を見、カーンも理解した。

 そんな下等下劣な輩が実際に大勢いるのだ。

 実に厄介である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る