第12話 忌み地

 陽が落ちる前に、穴にたどり着くこと。

 そう相談すると、再び歩を進めた。

 穴の口よりも中が広く、その分、雪を避けることもできる。

 獣も穴の中には入らないので、夜はそこに逃げ込むことになった。

 なぜ、獣が中に入らないのか。

 なぜ、こんな穴があるのか。

 余所者でなくとも、普通に聞きたいだろう。

 しかし、雪が思ったよりも激しい。

 話すのは穴でとなった。

 何を言ったところで、爺達も領主も穴に向かったのなら、私も行くだけだ。


 横殴りの激しい雪が顔に吹き付ける。

 凍傷を防ぐのに顔を覆い、目のところまで頭巾を下げた。

 毛皮の帽子を新調した甲斐があった。

 耳から顎下に結ぶ帽子の襞が気に入っている。

 自慢の耳なので、ぽろりともげたら悲しい。

 だからいつも、耳あて付きにする。

 時々、手足の指を確かめる。

 狩人の衣装は、すべて村の職人が作っている。

 軽く暖かく、湿気を通さずと、北ではちょっと有名だ。

 毛皮を使った防寒具や、織物が村の産業でもある。

 王国の御者協会の冬装備指定も戴いている。

 辺境伯の大切な領地収入だ。

 だから、少なくとも私の後をついてくる男達よりは、格段に暖かだ。

 時々、そんな彼らを振り返る。

 人と馬の数を数える。

 中々、根性と体力はあるようだ。

 私より大きな男達が弱音を吐いたら、笑ってやろう。そう思っていたのだが、残念だ。


 どこかで根をあげて、帰りたいといって欲しかった。


 そんな願いとは裏腹に、頭目は楽しそうに雪を踏んでいる。

 初めての雪なのか、表情は見えないが楽しそうだ。


 南国生まれなのかな。


 ちらりと見えた口元の肌は、浅黒かった。

 そんな余所事を考えながらも、見えない地割れを避け樹氷の間を進む。

 まだ、それほど積もっていないが、これはひょっとすると二三日降り続くかもしれない。

 鷹の爺なら、忌み地に人を入れたせいだと、すかさず答えたことだろう。

 それに私は、肉食獣が巣穴に籠もってよかったと憎まれ口を返すんだ。


 爺たちは、無事、なんだろうか。


 やがて灌木と雪の向こうに、黒い壁が見えた。

 私が指差すと、後ろの男達もやっと気がつく。

 馬が鼻を鳴らした。


 子供の頃から思っていた事がある。


 人が死んだら、ここに来るんだって。


 なぜ、そうおもったかはわからない。

 ただ、死んだら忌み地に還るんだ。

 死んだら、ここに還るんだ。


 と、子供らしからぬ、妙な事をずっと思っていた。

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