第11話 迷信
懐から智者の鏡を取り出す。
価値ある物だと、我慢して捧げ持つ。
と、表面には奇妙な円が描かれていた。
隆起した姿は壺の縁のような形。
へにょりと音がしそうな感じで、板か突き出している。
その姿に見覚えがあった。
意味がじんわりと浸透していくと共に、再び、この板を投げ捨てたいと思う。
その葛藤を押さえながら注視していると、再び板は形を変えた。
気持ちが悪いな。
「壁か、何かの建物か?」
男のつぶやきに、私は頭を振った。
「ここから半刻の距離に、垂直に穴が開いている。
洞穴なのか亀裂なのかわからない。
その周りが壁のように隆起している。」
私は降る雪を眺めながら、どこか夢を見ているような、不確かな感覚に包まれた。
いつか、何処かで、このような会話をしたような気持ち。
不安だ。
「穴には入れるのか?」
金属板の盛り上がりには、
「ここから底の方に向かって、緩やかな下りが続いている。脆いが、騎馬が通れないこともない。」
「では、ここだな」
思わず乾いた笑いが浮かぶ。
「何だ?」
黙って、笑った。
村の者も領主館の者も、皆、思った。思ったが否定していただろう。
まさか、そんなと。
確かに、領主も顔を白くしたはずだ。
忌み地に向かう、罰当たりめ。
後を追うなとは、この事か。
領主も爺達も、暫くは村には戻れない。
忌み地に入った後は、災厄を持ち込まぬように、神の家(森の小屋)で
供物も無しに、祭祀の時期でもなしに忌み地へ入る。
それも余所者を運ぶのだ。
忌み地へ向かうは、神を恐れぬ愚か者の所業。
人を救う神は居ずとも、災厄は降る。
世を救うため、人を滅ぼす災厄は居るのだ。
迷信?
忌み地とは、
迷信ならば良し。
忌み地とは、神が跡をつけた場であり、穢がわいた地。
ここは人には良くない土地だ。と、神が認めた。
近寄ってはならないよ。と、神が言う。
森は囲いだ。
だから、狩人以外は入ってはならないよ。と、神と約束をした。
そして
と、村では言われている。
穢に、死という終わりを与え、それを理と定めた。
神が、死を与えた場所。
つまり穢た場所であり、神聖な神の
辺境の迷信?
迷信なら結構な事だ。
その一言で片付くのなら、良いのだが。
「何だ、この穴に何かあるのか?」
ある。
この地で生きるのなら、迷信も現実だ。
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