第10話 違和

 木々が疎らになり、沼地からひび割れた地面に変わる。


 その姿に美しさはなかった。

 ただ、荒涼と過酷な表情を晒している。

 西南地域は砂漠と荒野だが、王国の東や西にある緑の地は、目に優しいものだ。

 それに比べれば、この森に心を晴らすものはない。


 村人は森を神聖視している。

 鷹の爺らは、畏怖を。

 私は、もっと居心地の悪い何かを覚える。

 生まれ育った場所を嫌っているのではない。

 常に、違和を覚えるのだ。

 神聖と畏怖を覚えるのは、北の暗い嶺々だ。

 しかし、その足元の森は違う。

 北の森(首都から北の位置という意味)は、混沌である。

 樹木の種類も統一感がなく、人の手が入らないので荒れて枯れ果てている場所さえある。

 狂った磁場(これのおかげで方位磁針はガラクタだ)に、険しい大地。

 生態系も混沌として、肉食獣もいた。

 南部以外で大型の肉食獣がいるのも珍しい。

 獣には、この混沌とした人を拒む場所は住みやすいのだろう。

 混沌とは多彩。

 人を拒み、小動物が多く、肉食獣が繁殖しやすい。

 底なしの沼に崖、人を拒む地形が、生き物の住処となり生かしていた。

 もちろん冬の今、彼らも巣穴の中だ。


 ***


 岩棚の下で、人馬は一息ついた。

 馬の具合を見、人は携帯食と少量の酒をあおる。

 火石、懐炉は十分か確認していると、頭目が側に来た。


「どの辺りだ?」


 地図とも言えない紙切れを見せてくる。

 方位と領主館、山と荒野。

 村の子供の落書きに見えた。

 私はちょうど北の山から西南の一点を指さした。


「村へは直進すれば、今の半分の時間だ。

 沼地が多いのはここまでで、これより先、南下するほど地面の割れ目がある。

 沼よりは見つけやすいが、落ちれば死ぬ」


 今まで進んだ経路を簡単になぞる。


「今はどっちを向いているのかもわからねぇ。どうして、今の場所がわかるんだ?」


 男は覆いで蒸れたのか顎を掻いて、岩棚の先の白い世界を見つめた。


「まだ、昼間だ。

 よく見れば陽射しがある。」


 白い景色に、薄っすらと明るい光点がある。


「..見えねぇな」


 私は肩をすくめた。

 私は村の狩人だ。

 森は狩り場で、遭難場所ではない。


「この季節は、北の山と渓谷のせいで、風は西から吹く。

 湿った風は南寄りで、身を凍らす時は西北。

 今は、少し北寄りだ。

 遭難しそうな時は西だと思えば良い」


「風が渦巻いてて、わからねぇよ..」


 体感をどう言えばよいのか。

 地図を眺めつつ、今度は男が唸っている。

 智者の鏡があっても、自力で森を出られる自信が無いのだろう。


 その時、懐から金属板が囁きを発した。


 気持ちが悪いので、慌てて懐から取り出す。

 私は板を投げ捨てようかと、本気で思った。


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