第749話 俺は変わったか? ㉒

「賢いつもりの風見鶏がお前らだ。

 イグナシオを見習えよ、火薬抱えて一番乗りを決めんのはああいう馬鹿だ。

 馬鹿だが、信じられるだろう。

 極端すぎるか?

 なら、サーレルにしとくか?

 アレだって、目的を勘違いはしねぇ。

 自分を売り払っても、仲間を殺しはしねぇ。

 お前らと違って、絶対に間違えねぇものを抱えている。」


「我々は違うと」


「じゃぁ聞くが、お前、お前自身を信じられるか?

 お前は地獄を前に一人で逃げるんだろ?

 仲間を親兄弟を平気で売り渡すんだろ?

 無手の民が助けてくれと言ったら、金をとるんだろ?」

「馬鹿にするな!」

「たった一人のガキを見て、尻に火がついたように狼狽える。

 鏡を見ろよ、その面をよ。

 お前達は臆病者だ。

 責任を取りたくない卑怯者だ。」

「違う!」

「違わねぇよ。

 こいつを見ろ。

 小さな見たままの娘だ。

 賢い知識とちょっとばかり変わった力がある。

 こいつを少しでも長生きさせる為に、神殿の一番偉い奴らから願われて守っている。

 そうだ、見たままを信じれば何も問題ねぇ話だ。

 ところがだ。

 お前らは後ろ暗い事を山程抱えている。

 お前らの事情だな。

 俺を怖がるのはわかる。

 だがよ、お前はこいつを疑ったが、一番信じてるのを証明してるんだ。」

「何を」

「お前ら二人はよ、こいつが怖いんだ。

 神様の娘だって、本当は信じてる。

 信じてるから、怖くて怖くてしょうがない。

 だから一生懸命、この小さなガキが神様の娘じゃねぇって証明しようとする。

 どうしてだ?」


 どうして?


 だが、カーザは顔色を悪くするだけで何も言わなかった。


「昔から殉教者が処刑されるのは、正直だからだ。

 言われたくない事。

 心の奥に隠している事。

 後ろ暗い事を見抜かれたくない。

 相対する者に、罪を犯している自覚があるからだ。

 だから俺の軟弱ぶりを測って、そこにつけこもうとした。」


 音が途絶えた室内で、私は言い合う雰囲気に負けた。

 だが、カーザは答えず、踏みつけられているバットも何も言わなかった。


「時間切れだな。

 さて、カーザ、これに謝罪をしろ。

 これでお終いだ。

 俺は出立準備に入る。」


「..すまなかった、巫女見習い。

 苦しめるつもりはなかった。

 ただ、お前が何者か知りたかったんだ」


 カーンは踏んでいたバットを蹴り起こす。

 蹴られた男は呻きながらも顔をあげ、暗い目を向ける。


「お前が良い子過ぎて、怖かったんだよ。

 臆病者はどうしようもねぇよなぁ。

 あぁ、これも連れて行くから安心しろよ。

 これ以降は謝罪はうけつけねぇからよ。下の婆さんにもちょっかいかけんなよ。

 会いに行ったら、殺す。

 警告じゃねぇ殺すからよ。これは忘れんなよな」


 私を抱え、カーンは部屋を出た。

 カーザも床に座ったままのバットも、何も言わなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る