第748話 俺は変わったか? ㉑
『仲良くはないよね〜。
でもいいんじゃないかなぁ、それも選んだ末の事だ。
嘘を本当と信じぬいて、何処に辿り着こうとさ。
それはその人間の業だからね。
僕はできないねぇ。
だってさぁ、罪を犯して逃げたとしてさ。
逃げおおせた場合、それは許されたと同じかな?
考えてみて。
罰はね、慈悲なんだ。
死を、僕達が慈悲というのと同じにね。
つまりね罰も死も、僕達からすれば本当に慈悲なんだよ。
わかるかな?
小さな僕達のお姫様。
愚かな人間には罰が必要だ。
何故なら、それは許しだからだ。
罪を許すには、罰を与えねばならない。
罰とは慈悲であり、許す事。
罰を逃れて得られるのは、神の否定と許しの拒絶に他ならない。
つまり、救われないってことさ。』
「巫女見習いが不安がっている。
それに顔色も今だに悪い。
この話はここまでにしよう。
我々は些細な勘違いをしているだけだ、バット、そうだな?」
私の顔を見てカーザが言った。
バットは何も言わずにカーンを見ている。
「彼はいつも通り変わりない、バット、そうだな?」
そもそも彼らは何をしたんだ?
カーンとの間の見えない確執はどういうものなんだ?
『確執じゃないんだよ、仕事。
道化の仕事だよ。
だから気にしなくていんだ。
覚えてる?
感じたでしょう?
怒ったのは君の考え方にだ。
ほかは実に演技がうまい。
わからない?
この男の商売を思い出せば、二人が何を恐れているかわかるんじゃない?』
そうか..。
カーンは粛清者と呼ばれる者の一人だ。
貴族も軍人も人種も関係がなく、命令を受けて処刑に出向くのだ。
バット達が無用に警戒しているのは、彼の仕事の所為だったのか。
『つまり君は完全に巻き込まれただけって事
さぁそろそろ胃が落ち着いてきたかなぁ、はやく芝居を打ち切って温かい場所に落ち着きたいものだ。
口を洗って水分とろうよ。
お芝居はもう飽きたよ。
まったく大根役者ばっかりで、まぁそれが味で笑えるんだけどねぇ〜』
「彼はいつも通りだ。」
重ねていう彼女をチラリと見るとバットは言った。
「はい、彼はいつも通り頭がおかしい。
我々は通常の手順を踏んだだけですよ。」
それにカーンは無言だ。
「騙されませんよ」
「自分の尺度で人を見るのは早計だ。
俺は嘘をついちゃいねぇよ、残念だがな」
「彼女は見届け人なんでしょう、俺達を始末できる理由を探しに来たんだ。わかってるんですよ」
「よかったじゃねぇか、認められてよぅ。
自分が始末されるような事をしたってな。
それにお前の目も濁ってるが、頭におが屑が詰まってるのも自覚できたんじゃねぇか?」
「ふざけるな、いくらアンタが獣王の」
言葉の途中でその姿は床に叩きつけられた。
音と振動に私も飛び上がる。
「さっき言った事も理解できねぇのか?」
倒れた男の頭に、重い軍靴が乗っていた。
「あぁ口がだりぃや」
「カーン、バットから足を退けろ!」
「次は殺すって言ったの覚えてるか?磨いたばかりの靴が汚れちまうなぁ」
「頼む、彼に頼んだのは私だ!」
「お前達が前期の東南任務でしくじった原因を理解してるか?」
「今、それは」
「だりぃが、言うか。
まぁ頼まれたしな。
説教じゃねぇ、最後の最後って奴だぜ。
お前達はイグナシオのような男を馬鹿にするが、あの場所で確かに戦えるのは、奴のような男だ。
お前達は、そんな戦える奴らを無駄に捨てた。
お前達のほうが捨てたんだ。
今更いらねぇだろ?
俺達もお前らなんぞいらねぇんだ。
ともかくよぅ、俺のやり方、俺の手の中にあるものにまで、盗人根性だしてくんなよ。
うっかり殺しちまうだろうが。
お前、俺が日和ってできねぇとでも思ったんだろ?
ガキの守りして、安い安泰でも欲しがったとかよぅ。
そろそろ獣王の
それで、日和ったと思ったんだろう?
あぁこれなら騙せる。
これなら嘘を隠せるぞってな。
何か弱みでも探そうぜ。
とでも馬鹿な事を考えたんだろう?」
グリグリと呻く男の頭を踏みながら、カーンはニヤニヤと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます