第747話 俺は変わったか? ⑳

 カーザは少し疲れているように見えた。

 どこか、行き暮れているかのようにも見える。


『僕達の忠告を忘れちゃ駄目だよ。

 己を救うのは、己自身の強い意思だけだ。

 まして敵意を隠し持っている相手に慈悲は不要だよ。

 ん?

 悲しい?

 もう、何で君は誰も彼も心配しだすんだよぅ。

 まったく、道化のお説教もちゃんと聞きなよぅ』


「はっ、もう嘘は聞き飽きた。

 理解ね、何の理解をしたんだかな。

 こっちも正直に言葉を並べるのは得意じゃねぇ。

 が、まぁ嘘つきどもにも理解できる話をしようや。

 俺は、公爵と一緒に行く。

 お前らとはここでおさらばだ。

 どうだ、よかったな。

 邪魔者は消える。」


 唐突な話に、カーザはハッと顔をあげた。


「コルテスへ貴様が行くのか?」

「おかしくあるまい?

 差配はお前らでどうにでもするがいいさ。

 俺は、休暇中だしな。

 後は好きにすればいい。

 俺とこいつと、俺の手勢は引き上げる。

 良かったな、これで自由だ。

 俺は久しぶりに、ちょっとしたお遊びに行く」


「何を言っているんだ!

 将官の殆どが新人ばかりになるだろう?」


「寝ぼけてんのか?

 元々、俺の手勢はお前の配下じゃねぇ。

 補充が欲しけりゃ、手配すりゃいい。それとも何だ、公爵に俺一人随行しろとでも言うのか?元々、人員を出すはずだろう。

 新人を当てる理由にもいかんのに、そっちの兵員を割かねぇように配慮しただけだ。

 ここの騒乱はお前らの懸案であって、俺が何かに対処するのは不測の事態がおきた時のみだ。

 違うのか?」


「今は作戦行動中だ、命令違反」


「そもそも俺は統括直属でお前らの指揮系統外だ。

 残念だったなぁ、不始末をがいなくなっちまってよぅ。

 だが、お前達はを選んだ、そういう事だろう?

 自由にはそれに伴う義務がある。

 今回はあてが外れて残念だったが、あとに残るは新兵ばかりだ。

 仲間内で今度は擦り付け合いをすればいい。

 と、俺の言葉は全部聞こえねぇんだったな。

 まぁ、一応言っておくが、俺を従える事ができるとまだ思ってんのか?」

「できますよ、命令違反は即」


「バットルーガン、俺を国家反逆罪にできるのは公王だけだ。

 因みに、お前の親父は俺を嫌ってるが、獣王よりは好きだそうだぞ?」


 私は話の流れについて行けず、三人の顔を見回すばかりだ。


『説明いる?』


 不安だし、不穏すぎるよ。


『大丈夫だよ、つまりね。

 道化を罰する事は、この二人にはできない。

 罰を与えられるのは人族系統の公王だけ。

 獣王は道化を裁かないし、この二人の親世代の東の貴族も、この道化には手出しをしない。

 となれば、公王もよっぽどの事がなければ、反逆罪などというを押し付ける事は無理だ。

 が使えないぞって話。

 事実上、この二人はどう足掻いても勝てない相手に言い掛かりをつけているんだよ。

 だから、君が心配する必要はないんだ。

 道化は相変わらずよく踊ってくれるよ』


 違うよ、どうしてこの二人は、こうなんだって事。


『仲間なのに?』


 仲間、じゃないのか。


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