第116話 街道へ ②
グリモアの主。
よくわからない。
わからないが、今までにない感覚がある。
村に残っては駄目。
ここにいては危険。
先に進まないといけない。
逃げなきゃ駄目。
そして強く思う。
簡単に死んじゃいけない。
簡単に死んではいけない。と、考えた途端、私の中に何かが
なのに友達のように語りかけてくる。
(この力を使って、そうすれば楽しい事ばかりだよ)
これはよくないものだ。
供物の中に巣をつくる何かの種子。
よくないもの、とても強い力。
嫌だな。
そう思ったら、それは静かになった。
かわりに世界の彩りが深くなる。
ゆっくりと瞬きをした。
急に視界が冴えわたる。
小屋の
これならば新月の夜も真昼のように見えるだろう。
くすくすと、私の中で何かが笑う。
私はもう一度、瞬きをした。
すると疲れて眠る男の姿がうつる。
誰だった?
名前がすぐに出てこない。
大きな男、珍しい瞳、獣人の、人殺し
寝床から起き上がる。
旅支度をとの話から、どれほど眠っていた?
小屋の中で、男だけが寝ていた。
外から聞こえる声を辿ると、どうやら彼らも帰還の準備が整ったようだ。
寝過ごしたようだ。
弱った体を起こし、布団を片付ける。
その間に、カーンは目を覚ました。
大きな欠伸をし、体を伸ばしている。
ゆったりと大きな生き物が伸びをしているみたいだ。
「おう、調子はどうだ。それを喰ったら出発だ」
男が顎をしゃくった先に、簡単な食事が置かれていた。
「もう、行かれるのですか?」
「そういう事だ、早く食え」
食事に手をつけながら問う。
彼らがでかけたら、私も出発だ。
この時期、北に向かうべきではない。
だが、目的地もない。
供物として求められる事がわからない。
何処へ向かうべきか悩むところだ。
お湯で薄めた葡萄酒を飲みながら、私は思案した。
生まれてこのかた、この土地から出たことがない。
困ったなぁ。
まぁそれはそれとして、結局、カーンは寛大だった。
今の所、村は焼かれてないし、爺達を殺して口封じもしていない。
このまま無事に帰って、再び戻ってこなければ万々歳だ。
と、挨拶だけでも一応しておこう。
「この場での挨拶となりますがご容赦くださいませ。
此度の非礼の数々に寛大なご配慮、誠にありがとうございました。
感謝の気持ちと共に、旦那方の道中、ご無事をお祈りさせていただきます。」
もうここには戻ってくるな。
とは、口にしない。
よくある別れの挨拶をする。
すると男は片方の眉を上げた。
器用だ。
「相変わらず小難しい言葉を喋るなぁ。
それに何言ってんだお前、お前が道案内だろうが」
私は両方の眉をあげた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます