第117話 街道へ ③

 私が旧街道の道案内もかねて同行するらしい。

 寝ている間に決まっていた。

 村から出た事も無いのに、道案内もない。

 まして外の街や他の領地に知り合いも親戚もいないのだ。

 確かに、彼らに同行すれば、安全に移動できるだろう。

 野盗であろうが野生動物であろうが、余程の馬鹿でない限り、小集団とは言え武装した騎馬に突っ込んでは来まい。

 釈然とはしないながらも、食事を終え用意された荷物を背負う。

 外には物々しい集団と、私の荷物が括り付けられた村の馬が、ぽつんと立っていた。

 爺達は、私の持ち物をもてるだけ纏めたようだ。

 馬も若い。

 鷹の爺は手形と金銭を寄越した。

 地図と手紙も一緒に握らされる。

 達者でという別れの挨拶以外、言葉はなかった。

 あっけない別れであった。 小屋から北の山裾の道はひとつだ。

 曇り空だが、まずまずの天気。

 皆、距離を稼ごうと黙々と進む。

 道案内が必要な場所は、まだまだ先だ。

 それを良いことに、最後尾に馬をつけると鞍に手綱を巻き付けた。

 懐にしまい込んだ手紙を開く。


 孫へ。

 村は昔から、生贄の風習があった。

 滅びの神が目覚めぬようにとまつり祈れと。

 儀式は、生贄の印があの穴の祭壇に出た時に行う。

 この地に住まう者は、あの穴へ生贄を連れて行く。

 生贄自身には、祀る儀式、形式だけの事だと嘘をつく。

 騙して連れて行くのだよ。

 殺すのと同じ事だ。

 生贄は、薬で眠らせ、祭壇に供える。

 すると目の前で消えるのだ。

 地の底の魔の元へと連れ去られる。

 それがどういう事で、彼らがどうなるかはわからない。

 だが、我らが人殺しであることにかわりはない。

 これはあの村ができる前、ここに暮らしていた集団から引き継いだ悪習である。

 迷信ならば断てようが、お前も知っただろう。

 あの地にはいる。

 森神様などという自然神ではない。

 あの地には、古い魔がいるのだ。

 生贄が家畜ならば、いくらでも出す。

 いくらでも、すべての財をだしてもいい。

 だが、家族を差し出すのは躊躇われた。

 だから村では昔から、身寄りのない子供を養う。

 醜いことである。

 ただ、この悪習は、自分たちの代では行わずに済むのではないか?

 と、我らも御館様も楽観していた。

 北の絶滅領域が出現してから、生贄を求める印が出なかったからだ。

 このままこの悪習が断てるのではないかと、皆、思った。

 なぜ出ないのか、御館様と我らはからだ。

 今生、我らの中から犠牲を出さずにすむと考えていた。

 この考えに、魔の者は怒りを持ったのだろう。

 なぜなら、絶滅領域で生きていた種族が死んだ。

 氏族郎党まるごと死んでしまったのだ。

 我らは人として、その死を悲しみ、

 けれど愚かな我らは、御館様の一族も、皆、安堵したのだ。

 彼らがとうざの生贄になったのでは、と、安堵したのだ。

 隠さず記せば、その死を喜んだ。

 我らは醜い罪人なのだ。


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