第173話 瞳の中に
確かめるといっても、人別から死体の照合をするのは難しい。
シュランゲが壊滅したという事。
火葬した女と子供の数が書類に記されるに留まる。
そしてカーン達が残した記録もそこに加わり、小さな村の名前が消える。
いずれまた、新しい人が村に入るのだろう。
しかし、問題は残るし、消えはしない。
シュランゲの虐殺、女子供以外の住人の行方と犯人。
事件そのものの経緯。
小村とはいえ、シュランゲはトゥーラアモンの、侯爵の支配地である。
事の次第を明らかにする。
犯人の捕縛に損害の回復など、侯爵の支配地としての処理をしなければならない。
貴族が舐められていては商売にならない。とは、侯爵は言わないだろうが、他の小村や領兵士のいない場所の街などには、警告を出さねばならない。
そうした仕事をするのは、目の前の侯爵の騎士というわけだ。
問題は、エリが何者であるかだ。
トゥーラアモンに集められている領地人別から、シュランゲを調べる。
人別の更新は、一昨年の春だ。
アイヒベルガー侯爵の税徴収は一年ごとではなく、三年ごとになっている。
あの真偽の箱の更新に合わせて、支出などを計算するようにしているようだ。
人別の更新を同時に行い、人頭税などの計算も徴税官が行う。
一昨年の春ならば、エリは生まれている。
だが、シュランゲの人別には、エリに該当する子供がいないのだ。
人別は、名(隠し名ではない通称である)と種族、氏族。
外見的特徴が記される。
髪と目と肌の色。
人種がわかれば、大凡のあたりをつけることができる。
ところが記録には、エリのような外見の子供が一人もいないのだ。
まず、砂色と白髪の混じった髪色の子供がいない。
そこで灰色または白、銀髪の薄い色合いの子供を探す。
しかし、村の多くが亜人種で、茶色か黒い髪の子供だ。
よしんば病で髪色が抜けたとする。
虹彩の色で探してみる。と、これもまた該当者がいないのだ。
エリの瞳は美しい藍色である。
夜明けの夜空のように、群青をふくみ澄んで輝く。
覗き込むと、夜空の星のような銀色が虹彩に奔っている。
成長したら、さぞや美しい娘になることだろう。
問題は、村には藍色の瞳も、エリのような長命種の特徴を備えた人族もいない事だ。
エリの人別はなかった。
シュランゲは、亜人や短命種人族の村だったのだ。
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