第413話 木の葉の船 ⑤

 聞こえないふりをする。

 すると彼らが笑うのがわかった。

 クリシィの顔を見る。

 彼女はニルダヌスと何か話をしていた。


(彼らの能力は穢を見分けるが、そもそも穢とは何かとなる。

 感度を絞りすぎて、見えない事が多いのだよ。

 特化しているんだ。

 だから、我々も余程の動きをみせなければ、彼らには見えない。

 我々は理の中に住い、且つ、神の定義も同じだからだ。

 そして穢もそうだが、お前自身が輝きをもっている故に、手にある力も見えぬのだ。)


 ナリスの囁きに首を傾げる。


(お前の指にある力だ。

 機嫌よくそこで蜷局とぐろを巻いている魔の事よ。

 それを誰も咎めぬのは、お前の命の輝きと同じに見えるからだ。

 つまり、見えていない。

 神官や巫女の力に過剰に期待するなということだ。

 彼らは、守られし者であり未だ眠りの中にあるのだ。)


(つまりね、彼らの能力は全能ではないって事さ。

 強力な守りの中にあるから、能力も開放されていない。

 彼らの能力が開放されれば、相手もすべて自由になってしまうからね。

 けど、今、その守りの均衡が崩れ始めているんだ。)


 なぜ、そんな話をする?


(答えを知りたいか?)


 答え、知るべきではない。


(そうだ。

 我々の毒を弁えた上で、助言を心のすみに残しておくのだ。

 そうすれば、善き選択をできるであろう。)


(まぁオジサンは心配してるんだよ。

 君が心配なんだ。

 ほら、耳をすましてごらん。

 胸苦しい朝焼けに、聞いてごらんよ。

 小さな笑い声が聞こえるだろう。

 そして夜の静寂に耳を澄ましてごらん。

 小さな悲鳴が聞こえただろう。

 ねぇ、君が不安に思うのは、気の所為じゃない。

 楽しいねぇ。

 楽しいよ。

 なんてこの世は楽しいのだろう。

 赤い血も、白い骨も、汚濁の中を生きる君も。

 打ち寄せるさざなみに泡と消える。

 楽しいねぇ...)


「誰かいるのですか?

 外で笑い声がしますね」

「あぁ近所の子供たちが時々、裏の墓地で遊ぶんですよ。

 入り込まないように言ってるんですけど」

「子供の遊び場が少ないですからね。危ない場所には近寄らないように注意をしましょう。遊び場ですか、まぁ遊ぶ暇があるなら神殿教室を再開しましょうか」

「巫女様、私も参加していいですか。その、教えてもらえる歳ではありませんが。」

「年齢は関係ありませんよ。ビミンは読み書きができますから、そうですね飾り文字などを練習すれば、代筆もできるようになるでしょう」

「やったぁ。教会の仕事もしっかり働きますので、よろしくお願いします」


 皆で喜ぶビミンを微笑ましそうに眺める。


「じゃぁヴィも勉強する?」


 肯定を返す前に、意外なところから待ったがかかった。


「申し訳ないが、先に医者に診てもらおうかと思っている。

 巫女様とちょうど城塞からお二方もみえられているので、許可をもらった。

 診断が良ければ、いろいろとできる事もあるだろう。

 だが、先ずは体調が優先だ。」


 と、ニルダヌスの提案だ。


「咳も長引いているし、どうも食欲も無いのが心配でね。

 余計な世話だとは思うが、明日にでも医者にいこうと思っている。

 どうかね、嫌でなければだが」


 それに食卓に並ぶ顔を見回す。

 心配そうな母娘。

 クリシィは頷く。

 小山二つを見る。


「儂らからも、提案、した。

 城塞の軍医は、嫌だ、ろう?」


 確かに。と、オービスの言葉に了承した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る