第757話 それが愛となる日 ⑤

 死んだのか?


『知りたいかい?』


 聞くな。

 疲れる。

 が、思うより怖いことじゃないか?


『そうだよ。

 怖いことだ。

 だからこそ、神は理を乱す者を罰するんだ。

 生も死も定めをもって護らなくちゃ駄目だ。

 理とは調和であり自然であると君は考えた。

 実にそれは合理である。

 理を守るとはね、この世を守る事だ。

 この世を守り、生き物を守る。

 君の好いた人々を守る事なんだ。』


 供物として、私は何を求められているんだ?

 命を投げ出す時を、私は待っていればいいのか?


『そうではないのだ。

 死を選べと望んでいるのではない。

 神は答えを求めているのだ。

 お前が人として選ぶ事々を知りたいと思っている。

 お前を試しているように思えようが、そればかりではないのだ。

 ..我ら魔の者が言葉は信じられぬだろう。

 供物である事はかわらぬし、得たもの失ったものも多かろう。

 だが、神が求めるは、苦行のみではない。

 いまひとつ、己が身を大切にするのだ。

 理を守るとは、つまりは大切に日々を生きる。

 何も難しい事ではない。

 人の普段の営みなのだ。』


 安らがぬ事を伝えられてもか?

 と、言い返す。

 するとナリスは黙り、少年はゲラゲラと笑った。


『それでもさ。

 供物の女、僕達のお姫様。

 君が思うより、僕達は主の味方なのさ。』


『眠れ、我らが力をお前の骨折りの分だけ開示しようぞ。

 お前が選ぶ事を皆で見ている。

 だが、試されるは供物ではない。

 生きる事を望むのだ』


『いらないってさ、迎えはまだのようだね。じゃぁ眠りなよ。

 供物の女、僕達のお姫様。

 夢の中だけは平和で楽しいことを願っているよ』


 ため息。

 ため息。

 沈むように意識が消えた。


 郷里の裏庭に通いし狐の子は、冬を越せただろうか?と、なぜか最後に思った。


 ***


「寝ておるな」

「自分は外の掃除に戻る。

 レンティーヌの遺骸が見つからんのだ」

「見つけたら娘には知らせてやれよ。

 無残よの..奴の証言をどう思う?」

「信じる信じないの判断は俺にはできんよ。

 ただ、神官の手帳とやらの行方も調べにゃな。

 どうせこの後、死肉漁り共が来る。

 彼奴等に無駄な情報を渡したくない。」

「祭司長殿に直接か」

「ニルダヌスの裁判に立ち会った者の中に死肉漁りがいた。

 元々節穴共だ。

 書かれた事によってはマレイラ自治にも影響が出かねん。」

「儂にはわからんが、まぁお前さんがそう思うなら、そうなんだろうの。

 下に行くなら、小僧共の事も少しは気にかけてくれ。

 あれの不始末につきあわされるわけじゃしの。」

「あぁわかってる、オービス」

「何じゃ、相棒」

「原因が何であれ、南が焼き払われた事はかわらん。違うか?」

「違わんな」

「ただ、ニルダヌスの証言を本当とするとな、納得がいかんのだ。」

「では嘘とするか」

「わかっているだろう?

 手にしたによって、ああなった。

 そんながあるか?」

「ニルダヌスに起きた出来事が証言道理であったとしてか」

「ニルダヌスか、その周辺にいた者を標的にした。と、考えたほうが納得できよう、違うか?

 当時、奴の妻が長命種ながら南の病毒に犯された。

 そしてニルダヌスは一時除隊をしたと言うが、それもおかしな話だ。

 南の病毒ならば、軍に解毒施設もある。

 除隊する必要は無いし何も西に流れずとも良い話だ。

 本当に病だったのか?

 ニルダヌスとその周辺の当時の状況を調べにゃならん、だろ?」

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