第758話 それが愛となる日 ⑥

 注)最後にオービスとバットの状況を記しました。

 不要部分の解説ですので、読み飛ばしオッケーです。




 ***


「サーレルには言ったのか?」

「アレは言わずとも今回のニルダヌスの証言の裏をとるべく、既に人を動かしている。

 ロッドベインの処刑の状況などもな。

 お前には嫌な話だろうが、第八の失態のお陰で東の者の多くが力を落としている。

 今ならば、過去に手を入れられるかもしれん。」

「東と言っても、過去の妄執に過ぎんよ。

 若手に代替わりしとるし、アレバットの教育をしたのも老害どもよ。

 もうええよ、ええよ。

 あぁ、ニルダヌスを裁判にかけた当時の司法長官はまだ、生きているな。

 姉の方から手を回そう。

 今は誰が席に座っているのか」

「現在は南の対抗派閥ローザ・ワイルダーだ。共同体女性家長派推薦の強硬派だが、過去の判例記錄の開示を求めれば今までと違って応じるだろう。」

「よく覚えておるの」

「そりゃぁ美人の名前は忘れはせん」

「おぉそうかそうか。

 むさ苦しい司法長官の後は美しい花が咲いておるのだな」

「花というより、獰猛なヒグマだがな。」

「ほぅほぅ面白そうじゃ。

 おっと、そろそろ起こさねばならんな。こんな髭面を寝起きに見て驚かんとえぇが」

「今更だ。カーンに物申すような娘だ。小汚い顔なんぞで泣きはしないだろうよ」

「顔は洗っとるし、髭も手入れしとるわい」

「まぁ自分たちは紳士だからな。髭と鬣の手入れはかかさんのは当然だ」

「うむ、本当にな。

 こんまい娘に迷惑をかけてしまった。

 正直になれんとも、せめて離れる事ができればと思うたんだが」

「不幸をとりあげれば、そればかりに見える。

 身内のお前にすれば、憐れと思うのも当然だ。

 だが、お前だってわかっているだろう。

 子どもの失態とするには、無理がある。

 そして親や環境が悪かったとするにも、すでに時間は経ちすぎている。

 苦しみの中に置かれた子供が、すべて道を誤るわけではあるまい?

 と、自分のようなはぐれ者が言うのはなんだがな」

「すまん、すまんな」

「親に見捨てられた子供なぞ、腐るほどいる。

 自分なんぞ、面と向かって畜生の忌み子と神殿に売り払われた。

 お前だってそうだろうが」

「取り戻すには遅すぎた。儂も姉も気がつけなかった事が元よ」

「元凶は始末したんだ。泥を全部被った伯父オービスや伯母の顔に泥を塗るのが恩返しか?」

「教育には携われなんだ。

 気がついた時は、ああだ。

 子供の頃に儂が引き取っておれば。」

「お前や姉君が人非人を始末し、領地差配を安定させるのに奔走していた時。

 あ奴らとその氏族は逃げたではないか。

 あまつさえ、圧政を敷いていた者どもと一緒になり、煽り立てていただけではないか。

 その後も壁蝨のように財産を分けろと土地をよこせ、そうそう議席も足りぬと強盗のようであったろう?

 お前の親族を貶す俺を怒ってもいいぞ。

 俺も怒っているんだ。

 俺の相方の努力や労力、その成果を罵り蔑みながらも、金を要求するような死肉漁り共だ。

 お前の慈悲を当たり前とする愚物なんぞ、皆、土になればよいのだ」

「いかんよ、いかん。

 スヴェンよ、ありがたいがぁいかん。

 お主は、いつも正しい。

 正しいことでお前自身を痛めつけてはならんよ。

 お前の大嫌いな奴らと同じになってしまうからの。

 ありがとうよ、ありがとう。

 わかっているんだ。

 煮えきらぬ儂がいかんな。

 筋は通す、それが領主一族の努めよの。

 さて、そろそろ時間じゃぁ、娘を起こして支度をさせねばの。

 わかっちょる、儂も姉に手紙を出すよ。

 お前の事もよくよく伝えておくぞ、姉も楽しみにしておるしな」

「現状報告はいいが、俺の何を書くと..」

「そうだのぅ、お前の鼻の下が伸びた相手をだな」

「書かんでいい!絶対に姉君には伝えるでない。

 貴婦人に対して、ろくな事を吹き込んではならん!」

「相変わらずじゃのぅ、姉君にお前は夢を見過ぎじゃ」

「あのような儚い美しいお方に弟とはいえ、無礼にすぎるぞ!」

「儚い?

 暴れ虎と呼ばれる姉がか?」

「誰だ、そんな無礼なあだ名をつける奴は!」

「おっ、娘が起きたようだ。ほら、お前は仕事にいけ」

「ともかく、姉君にはよくよく宜しくと書いておけ。余計な事は書くなよ!」

「..騙されておるのぉ、まぁえぇか」



 ***




 解説補足)オービスの兄弟は姉二人、オーヴィス、弟、妹となります。

 バットは妹の息子にあたり、血縁としては甥。

 バットの養育にあたったのが、妹の夫の両親で、オービスの領主一族とは別貴族の寄り子になっています。

 別の貴族が、タニア・カーザの一族です。

 カーザの一族とローゼンクラム一族は現在、別派閥となっております。

 カーザが旧南領東部貴族派。

 ローゼンクラムが新南領東部貴族派。

 ローゼンクラム派閥が現在の獣王支持勢力となります。

 つまりバットは現在の王派閥の伯母伯父の血縁でありながら、衰退しつつある前獣王派閥に属している状態です。

 伯父であるオービスをも信用できないと考えているのは、残念ながら彼を育てた旧王派閥の教育の賜物でもあります。


 そしてオービスの姉君は、小柄な美人です。

 巨漢の弟と比べると小柄にの、重量獣種の貴婦人です。

 人差し指と親指だけで林檎が粉砕できます。(人族の成人男性も片手で余裕で持ち上げられます)

 美人フィルターに誰かは誤魔化されていますが、広大な領地を治める頭領として、頭脳も腕力も備える猛虎だったりします。

 そしてオービス的には、スヴェンが婿に来て欲しいと思っていたりします。(蛇足っす)

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