第756話 それが愛になる日 ④

 虚無?

 何も無いのか?


『あるよ。

 オジサンの説明が悪いんじゃなくて、今の人間に合わせた説明が難しいんだよね。

 そうだねぇ〜遊技盤はわかるかな?

 そう遊技盤の陣取り合戦だ。

 僕達の世界、まぁ全部が陣地だね。

 神様が描いた円の中で楽しく暮らす僕らは駒だ。

 でもこの円の外には、まったく違う盤面があるんだ。

 オルタスの国々みたいなお隣さんじゃないよ。

 全く違う世界だ。

 そこは水の中かも知れないし、光り輝く水晶の世界かもしれない。

 霧や影だけかもしれない。

 そこでは魚は空を飛ぶかも知れないし、人間と称する四つ足の獣がいるかもしれない。こうして息をできる大気さえ無いかも知れない。

 だから同じ遊戯盤の駒では遊べないんだ。


 そんな世界と僕達の世界を分けているのが、神様の作ったことわりという人間には見えない境目だ。


 この境目が壊れてしまうと、外側の第四の領域が侵食して、僕達の世界は消えていく。

 盤面も駒も何もかもね。

 遊んでいた事さえ消えてしまう。

 領土戦争と違って、消えてしまうんだ。

 だから、虚無と呼ぶんだよ。

 魔導の力とは、この薄い理の壁から滲む力を燃料としている。

 魔導とは別の遊び方って訳ね。


 知らない神が差配する遊びとなれば、僕達はどうなるかな?


 消滅するかもね。

 それとも、君は魚という人になるかもしれない。

 もしくは言葉も忘れたナニカに変わるかもね。

 だから、滅びを呼び込む魔導師はし、忌避される。

 魔導を扱う者は殺すんだ。

 問答無用でね。

 うん、君にはできないね。

 わかってる、わかってる。

 我らが神に恭順し、理の中で生きる事を選べば別だね。


 じゃぁそんな魔導で作るグリモアって何って話。


 陣取り合戦と言ったね。

 つまり我らが神も第四の領域の神も、神様同士では別段敵対している訳じゃないんだ。

 遊び仲間だね。

 だからこそ、お互いの遊技盤の再生と破壊を担わせている。

 陣取り合戦の遊びだからね。


 では、魔導師の役割とは何だ?


 魔導師とは、その存在自体が不安定でね。

 どちらにも属してしまった者って訳だ。

 時々で駒の色が変わるって事さ。

 大方が、君たち人間の倫理から外れてしまうのは、啓示を受ける相手が違うからさ。


 さて、少しは理解できたかな?

 神が我らを守護するは慈悲に他ならず、去らずに見捨てなかったのがわかるかな。

 つまり、オルタスに生きるは幸運であり、その神へと恭順を示さねば恩知らずという事なのさ。

 故に、魔導師とは罪人である。

 何故なら、我らが世の神ではない存在と結びついているのだから。

 あぁ僕達に出逢えば、彼らはだ。

 君が思い煩う事は無いよ。

 出会うだけで、彼らは終わるのだから。

 まぁ我々の存在は闇夜の灯火の如く輝いているから、彼らも岩の影にでも隠れているだろうけれどね。

 そうそうニルダヌスが出会った災厄は、もう恭順しているから気にしなくていいよ。

 彼らは西に向かったからね。

 自分たちの運命を探しに、我らが神より下げ渡された憎しみを撒き散らしにいったからね。

 きっともう、砂の山にとなっていようし』


 ザラリと笑う気配。

 哄笑はさざ波のように広がる。

 それは感慨を感じさせ、悪意だけではない悲しみを感じた。

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