第755話 それが愛になる日 ③

 鮮明に伝わる。

 何故だろう、今までよりもくっきりと言葉が響く。


『君は同化と悪く考えているけれど、これは調律が進んだからなのさ。

 つまり楽器が正しく音を伝え、聞き取る耳がそれに慣れた。

 君と僕達はきちんとわきまえた正しい距離感をつかめたんだ。

 僕達は紳士だからね。

 はは、信じてないねぇ〜。』


 また、何か嘘をつくのか?


『嘘じゃないさ。

 事実を言わないだけさ。

 さて、魔導のお話だね。

 僕達が集うグリモアを人は魔導の書物と呼ぶ。

 この所有者については、今のところ開示しない。

 君が一つ持ち、先程の死者の書が一つだ。

 この他に2つ現世にあるが、これだけとは限らないとだけ言っておこう。

 さて、君の疑問の答えは簡単だ。

 この書物はいずれも理の外で作り出されたからだ。

 理そのものに干渉する力をもたせる為にね。

 僕達のオラクルの書を考えればわかるでしょう?

 他者の力に干渉し、神が定めにも影響を及ぼす。

 つまりこの世界そのもの、領域干渉を行えるからだ。

 逆を言えば、魔導とは非常に危険な力だとわかるだろう。

 こちらの決まり事に落とし込まねば、魔導とは滅びなのだ。

 ここに第四の領域の力と呼ばれる所以がある。

 おっと、だんだん僕じゃないオジサンが口出ししてきたね。

 仕方ないなぁ、オジサンが少し喋るよ』


 少年が咳払いをする気配、その後に語りだしたのは落ち着いた壮年の男の声だ。

 多分、ナリスだ。


『オラクルの書は、理を描き修復をし、領域を保つ。

 故に神の第一の書となる。

 先程の死者の書は、その下位にあたり、魔導を含む理力を扱う。

 つまり第四の領域を僅かながら利用できる。

 ただし利用者の意向により、完全に理の書として使うもできるし、魔導だけを扱う事もできる。

 第一の書、我々はオラクルを守護者の書と呼ぶ。

 これは他の書物を破壊できる唯一の書物であるからだ。

 常にこの世界に置いて一位にあり、魔導を含まず神の意向のみが讃えられている。』


 むずかしい。


『オジサンが焦ってるぅ。

 まぁ要約すると、僕達はこの世界で一番だって事。

 魔導ってのは、この世界で言えばいらない力だ。

 その塵を消し去る事ができるのが僕達って訳。

 だから、神様が守護者に与えるんだ。

 この世界を守ってねって。』


 ボルネフェルトは


『前にも言ったね。

 これは正しい持ち主から奪われて、ボルネフェルトに与えられた物だ。

 だから、天罰が下った。

 僕達を与えるのは神だけだ。

 はいはい、オジサンが続きを喋りたいってさぁ』


『..理が描く領域とは何か。

 お前が生きるこの世がひとつ。

 死者が集うあの世がひとつ。

 そして我らが集う魔の世界だ。

 では第四の領域とは何か?

 頭の中に円を描くと良い。

 中心に神がおられる。

 次に魂を巡らせる死者の世がある。

 そして生きるその方等の苦界がある。

 そしてこの円を円たらしめる形が理である。

 魔の世は、この人と死者の間にあり理を強くする。

 しかして一番外側の境界が、第四の、理の外との狭間である。

 狭間の外は我が神とは異なる領域であり、我らが理を消し去る虚無である。

 第四の領域とは我らにとっては虚無なのだ。』


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