第30話 人の理 ②

 ことわりとは、調和を保つはかり

 この世とあの世。

 人の世と神の世。

 けがれとは、調和を乱すモノ。

 境を無くすとは、理を壊す事。

 故に、この世を支える理は、常に調和を求め、異物を排す。


「死なぬモノは、蝕む穢れである」

「穢れってのは、邪神とは違うのか?」

「悪い神も善い神もない。

 大神おおがみが定めた理を守らぬモノは、穢れだ」

「大神って何だ?神と違うのか」

「境を越えようとしているのも神だが、三世を支える大神は、摂理を護るこの世そのものだ」

「馬鹿にもわかる言葉で言ってくれ」

「..このオルタスすべてが神だ。

 そしてそこから産まれた様々な神がいる」

「神殿で駄目だしでそうな話だなぁ」

「渡り神官様は楽しそうでしたが」

「そりゃ楽しいだろうさ、辺境のガキが真面目くさって神の話をするんだからな」

「言い伝えをそのまま言ってるだけですよ、村の年寄の話です」

「都の神官や高位の貴族には、その手の話題は聞かれても応えんなよ」

「旦那はいいんですか?」

「そりゃ、俺は寛大だからな」


 確かに寛大だ。

 田舎の物知らず、子供だとしても、こうした雑談をする相手ではない。

 先程から喋り続けているのは、不安だからだ。

 ずっと腹は力を込めたままだし、いつでも相手の間合いから逃れられるようにと気を張っている。

 気安く会話を投げているが、この男が少しでも変心すれば、あっという間に私なぞむくろだ。

 わかっている。

 この野蛮そうな振る舞いの男は、寛大だ。


「いや、そこで何か反応しろよ、俺だってガキには、本当に寛大だしよ」

「死なぬとは、産まれぬと同じ。

 争うと同じく滅ぼす。故に大神は新たな理を設けた」

「無視かよ」

「理とは、この世界そのものの土台だ。

 土台を変えるより、うわものを作り直した方が簡単だ。」

「ほぅ」


 さて、穢となったモノと子の、繋がれようとした手が触れたのは、紛うことなき虚無であった。


「神学ってそうだよな、眠くなっちまうよな」

「終わりにしますか」

「続けろ」


 死なぬ穢れたモノが在る。

 ならば、元からある3つのいずれかに、戻れるようにすれば良い。

 4つ目の理として、滅びるを与えた。

 人神は虚無から理を得て、滅んだ。

 手を伸ばしていたモノも、地に沈んだ。


「死ぬという理、定めを与え、この穢れた場所で死なせた。

 穢れた土地、忌み地であり、4つ目の理が産まれた場所。

 この地は穢れたが、神の力を残す場所だ」

「昔、ここに国があったのか?」

「言い伝えを、今の考え方に当てはめればですが」

「お前の先祖じゃないのか?」

「先祖を同じくした人達の集落が、昔は森にあった。

 それも死に絶え、残っているのは王国の入植者だ。この忌み地の話や儀式も、その集落から引き継いだ」

「ここが?」

「ここは何処なんです?」

「俺が聞いてるんだがな」


 私の話は、これで終わり。

 爺を見つけて帰りたい。それだけだ。


「人神の住処か?継ぎ接ぎの死体みたいなのも出たしよ」

「信じてもいない事を聞かないでくださいよ、御客人」


 私のぼやきに、男は肩をすくめた。

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