第31話 油断
出口は見つからなかった。
さすがにカーンも疲れを見せた。
私達は乾いた場所を探し、腰を落ち着けた。
お互いに背を向けて腰を下ろす。
今ならばと、私は荷物を漁った。
背嚢はそのままだったので、中の食料を背後に手渡した。
彼の持ち物は、その殆どが物騒な物でしめられており、食料は私の手持ちだけだ。
量をみず栄養価だけなら、3日分と見た。
獣人の消費量は、亜人や人族とは違うだろうが、命を保つだけなら何とかなる。
前提として、この場所の水が飲めるとしてだ。
見たところ、水の流れに魚影が見えた。
暗闇に奇っ怪な姿の魚だが、毒もちでなければ食えるはずだ。そして獣人ならば耐毒に優れているはず。
それに背後の男は迷い人ではない。
獲物を追ってきた犬だ。
それも王国随一のとつく。
「少し寝る、半刻たったら声をかけろ」
剣を地に突き片方の膝を立てて目を閉じる。
男の姿は一見すると、頭を垂れて座っているように見えた。
だが、規則正しい息は少し深い。
気配が眠りに支配されるのがわかった。
きっと声なぞかけずとも異変があれば、そのまま戦いに移れるのだろう。
どんな暮らしをしているのやら。
呆れると同時に、少し安堵する。
その思考の流れに、私は項垂れた。
これほど相容れない相手を頼るとは情けない。
全く何と、愚かか。
見ず知らずの相手に、己の身の安全を頼る情けなさ。
意気地のない自分が、どれほど狼狽していたのか気がつく。
油断をするな。
いつもの自分を取り戻せ。
瞼をしばらく閉じて、再び開く。
恐ろしくとも自分で判断し、自分で選ぶのだ。
森の野営と同じである。
ここから戻るのだ。
爺達と一緒に、帰る。
いつもの静かな冬を過ごすんだ。
そんな空元気も、静寂が続くと勢いを失う。
この場所は、不自然だ。
方角がわからない。
風の流れの始まりと終わりがわからない。
揺らぐ灯火は、誰の手を借りて燃え続けているのだ?
爺達もここを通ったのか?
己一人のことならば、一人始末をつける。
怖いし辛いが、それだけだ。
だが、誰かが恐ろしい目にあっていないか。
理不尽な痛みを与えられているのではないか?
と、想像すると、それは自分のことよりも怖かった。
静かな時が降り積もるように、その恐ろしい考えも大きくなる。
すると、背後の変わらぬ寝息だけが、何故か頼りに思えてしまう。
そして堂々巡りだ。
半刻と言ったが、村人に時を測る高価な道具があるわけもない。
感覚で起こせばいいのか?
早くても遅くても怒られそうだ。
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