第154話 目的地 ②

 私が目的地にしたいと考えているのは、5つの大きな街の一つイルバだ。

 この宿場とは比べられないほど大きな街らしい。

 北と西の交易順路であるこの宿場でさえ、私にしてみれば繁盛してみえるのだが、イルバから比べれば町にもならぬのだ。

 そのイルバ、北領と南西の間に広がる草原を中原地帯と呼ぶ。

 点在する村や街は、それぞれ北領か西方辺境伯が従える諸侯の領地だ。

 広さは北領が荒野を含めれば一番大きい。

 しかし、北方辺境伯が一領主で領兵程度の武力保持を許されるのに対し、西方辺境伯は、北領よりも狭い地域で南部獣人領の際を治めながら、西から南方向の数十の諸侯(人族領地)を従える大貴族である。

 これは北が絶滅領域に沈んだ事、南西方向が中央大陸王国権威と力を維持する為の戦略地域である事の違いである。

 と、教えられた常識内の答えならば、これが正解だ。

 そして今は、北方辺境伯の領地の零落具合の本当の原因を探る話ではない。

 西方辺境伯の支配地ならば、多少毛色の変わった種族が混じっても目立たないだろう事だ。

 イルバならば地理的に、亜人や獣人の働き手が多いはずだ。

 地図を丸め、これからの事を考える。

 エリが落ち着けたら、イルバに向かう。

 そこで仕事を探すことになるだろう。

 私の鑑札は期限もなく、人別も北方辺境伯の領地に残っている。

 この為、季節ごとの出稼ぎとしてイルバや周辺の街や村を巡るのがいいと思う。

 因みに流浪民、難民、出稼ぎの違いは、税と人別だ。

 まず、流浪民は集団で一定の地域を渡り歩く集団だ。

 彼らは集団として地域の支配者に届け出る。税金も年単位で集団として治める。

 この為、流浪民とはいっても、所属する地域はある。

 次に難民は、人別から漏れた集団の事。

 税を払えない人々で、国の難民循環へと送られる。

 出稼ぎは、人別があり税を払える者となる。


 濁った窓硝子に、青白い顔が写っている。

 いつ、化け物になるのか。

 いつまで、人の側にいられるのか。

 私は供物だ。

 カーンは忘れたけれど。

 私は、化け物の側になったのだ。

 私は、生きる。

 もっともっと捧げ尽くすまで、生きる。


 少し疲れた。

 地図をたたむと、私も荷物を整理する事にした。

 山や森に暮らし狩りをする。

 そんな私には戻れない。

 では、何ができるのか。

 彼らは何をさせたいのか。

 防水布から取り出した弓は、美しい光沢をみせていた。


 ***


 一晩あけて、早朝の食事の粥が不味い。

 食べられるだけありがたい話だが。

 不味い物は不味い。

 携帯している干芋の方がうまい。

 それがわかっているのか、男達は宿の食事をとらずに、宿場の飯屋に繰り出していた。

 私達も誘われたが辞退した。

 節約の為もあるが、彼らの繰り出した飯屋は飲み屋だ。

 エリの教育上よろしく無い。

 結果、泥状の生臭い塊と対面することとなった。

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