第153話 目的地

 エリは寝台に買い込んだ物を広げ、見分中だ。

 発見後、一度泣いたきりその顔に動揺は無い。

 感情は平坦で、それが見ている方からすると不安だ。

 では、どんな様子なら普通か?

 正直に言えば、わからない。

 家族や仲間と生き埋めにされた後の普通とは何だ?

 私の言葉や態度で、これ以上、エリを傷つけないようにしたい。

 けれどそう思っても、傷つけてしまう事もある。

 できるのは、彼女がたどり着けるまで側にいる事。

 暮らしていく場所を得るまで側にいる。

 これだけを考えよう。

 私ができる事など少ないのだ。

 うぬぼれてはいけない。

 私はどうも、他人への態度が傲慢だ。

 一方的に色々考えすぎる。

 だから、怒ったのかな。

 と、ここにはいない男の事を考えて、いったん散漫になった思考を切った。


 私は窓辺の椅子に腰掛けて、地図を広げた。

 爺達の地図は、簡素だが北の集落や街を記してある。

 そして方角として距離感は無視して、王国の国々の名が置かれていた。

 それによればカーン達は、この後、街道を東に上る。

 旧街道で稼いだ日数は、あの村での足止めで消えたが、寒波を避ける事ができた。

 これだけで人も馬も余力が残る。

 そしてその余力で、首都へと直線で向かう。

 途中の原野も越えてだ。

 首都は、オーダロンの中央門と呼ばれる外殻を越えた中にある。


 ここからは又聞きと書物の中の知識だ。


 オーダロンとは、中央王国の都ミ・リュウの巨大門である。

 王都は、三重の外殻がいかくと呼ばれる防壁に囲まれている。

 中央門のオーダロン、別名・地獄門は、古代の技術が利用された、天にそびえる巨大門だ。

 その門は不思議な水晶でできており、両脇には巨大な神像が刻まれている。

 神像は神聖教以前、過去の女神像という話だ。

 さて、そのオーダロンが王都の南の玄関として、残りは東と西にある。

 東は軍事専用のシダルダの東門。

 一番小さなオルパノ門は、西となっているがオーダロンとくっついている。

 形としては南向きにオーダロンがあり、西南向きにオルパノ門がある。

 オーダロンが主要の外部流入をオルパノ門は、緊急放出用として普段は閉じられている。

 なので、王都へ入る門といえば、オーダロンの水晶門だ。

 地獄門の別名は、戦争難民の流入口からの発祥だ。

 決して王都天の国に彼らは足を踏み入れる事が無い。

 三重外殻の内側にて、彼らは選別の後に外に送られる。

 だから、これが地獄への入り口と揶揄された。

 これは蔑称だが多くは良い意味で、水晶門と普通に呼ばれる。

 古代の失われた技術によって開閉される巨大な水晶の門は、遠目から天の国への入り口のようだと称賛された。

 そして、この王都には神聖教の本神殿があり、その巨大な敷地への巡礼と観光でこの門を利用する者も多いのだ。

 まぁ私には、縁の無い話である。

 重要なのは、この王都までの道程にある街だ。

 小さな村々を含めれば十一。

 地図を辿り考えているのは、この5つの街と草原の村々を順繰りに渡るのはどうか?という、私の身の置所の話だ。

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