第152話 靴と飴 ④

 エリは靴の暖かさと綺麗な刺繍に満足したらしく、うっすらと笑んだ。

 それに真新しい外套を着せ、今度は菓子を選ぶことにした。

 ひなびた宿場の菓子であっても、私達には高級品である。

 慎重に真剣に私達は菓子を見つめる。

 カーンからもらった金は、まだまだ余裕があった。

 けれど、身よりも何もかも失ったエリに、現金を少しでも多く持たせておきたい。

 日持ちがして美味しくて、心にも温かみを与えてくれる菓子はないものか。相変わらずやる気があるのか無いのかわからない店主が、気前よく味見をさせてくれる。

 私達は、値段と味を慎重に吟味した。

 そうして買い物に満足して宿に帰ると、カーンだけが部屋に残っていた。

 他の者は未だ戻っていないようで、彼だけが部屋の寝台で伸びている。

 肩肘ついて酒を飲み、暇そうにしていた。

 頼まれていた買い物、多くがちょっとした消耗品を部屋の長机に置く。

 それを見たエリは、購入した自分の服や持ち物を同じく机に並べた。どうやらカーンに買ってもらった品を見せるつもりらしい。

 エリは賢いな、賢くて不憫だ。

 けれど私よりずっと勇気があるのだろう。

 そんな賢いエリは、男に何を購入したかを広げてみせた。

 与えてくれた相手へ、礼儀をもって答えようとしている。

 それがわかったのか、カーンは唇の端をあげ、少し笑う。

 そして酒盃を置くと広げた品を見、エリが答えやすいような質問をした。

 その服の色は好きか?

 好きなの選べたか?

 今は暖かいか?

 そうかそうか、靴?気に入ってるんだな。

 おぉそうか、そこの刺繍が好きか。

 等と頷くだけの返事ですむような事を言っては、興味深そうにエリに質問する。

 思うのだが、見かけによらず子供に対して慣れていた。

 サーレルの場合は、どんな相手にも臆さぬ部分を感じたが、カーンの場合は特に子供に慣れている。

 彼にも兄弟がいるのだろうか。

 思い返すと、この男は私が子供であろうからと加減していた。

 きっと大人未満だと知れば、もっと違う対応だったのかもしれない。

 自分が殺した相手の首を転がし、それを肴に酒を飲む男だ。

 子供だからと加減してもらって幸いだ。

 エリが袋の中身を知らない事も幸いだ。


「菓子も買ったのか、ふ〜ん」


 エリは菓子の包を取り出すと、寝台に腰掛けた男の側へと行った。

 そして特に慎重に選んだ、燈色の飴玉と赤い飴玉を取り出すと、カーンに渡した。

 どうやら、この男への土産らしい。

 受け取る男も驚いたが、私もちょっと驚いた。


 エリ達を苦しめた者どもは、ごく普通の人だった。

 恐ろしい風貌の男でもなく。

 見知った相手だったのだ。

 だから、エリは見知らぬ人の方が怖くない。

 ただ飴をガリガリ噛んで酒を飲む男は、見ての通りなので馴染まなくていい。


「お前は土産はないのか?」

「木彫りのお面がほしいのですか?」

「木彫りの土産物はいらん」


 私は肩を竦めると、就寝の挨拶をした。

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