第494話 金柑 ③
因みに、巨人種という種族も過去にはいたそうだ。
ただし彼らは個体数の減少と環境変化に追いつけずに絶滅した。
しかしこの人波を見ると、彼らの血が混じっていてもおかしくない。
と、どうでもいい知識が勝手にグリモアから流れる。
色々な意味で勘弁して欲しくなった。
今、私は荷物として運ばれている。
逃亡防止と踏み潰されないための処置かもしれない。
そして運搬中の男のお陰で、混雑していても道ができ楽に移動している。
略式敬礼のさざ波に、道が勝手にできるのだ。
位階制の面目躍如である。
「肉ばっかりだが、食えるか?」
肉でも何でも良いから、早く食べて部屋に戻りたいです。
食卓の影に隠れたいのですが、駄目ですかね。
とは言わずに頷いてみせた。
因みに、好き嫌いは無い。
宿場の粥以外ならどんとこいである。
そうして配膳された物は、見事に肉料ばかりであった。
肉の汁物、肉の焼き物、肉の...
「あぁ〜まぁ一応、口当たりは脂っこくない、はずだ。」
狩人としては、肉は好物と言いたいところだが、実際口にする頻度は少ない。
肉と毛皮は現金収入としている。
自分の取り分は、装備にするか携帯食料に加工するぐらいだ。
ガツガツと肉を食べる事はまず無い。
私の顔色を見て、カーンは肉の割合が少なめの料理を配膳した。
座って料理を眺める私。
食堂に並ぶ長い食卓の一つ、何だか一段高い場所にあって全体を眺め渡せる場所だったりする。
何様だ貴様はぁ!とか言われそうな構図と場所だ。
しかし動くなと言われ置かれたわけで、言い訳するなら巨人仕様の椅子なので下りる場合は中々難儀な事になる。
座面と食卓の位置を調整する為に、敷物を当ててもらったので、更に逃げにくかった。
まぁ逃げるとか考えてもしょうがない話である。
「海辺という感じがまったくしない献立ですね」
平静を装っているが、視線が痛い。
給仕係だろう亜人の青年が驚愕の表情で私を見ている。
多分、亜人なので城塞常駐の人なんだろうか。
そんな見られても、私は何者でもありませんよ。と、無言の言い訳をする。
そして配膳をしているカーンと代わろうとして追い払われた。
すまない、給仕の人。
きっと事情を説明するのが面倒なのだろう。
仕事を奪ってしまったようだ。
まぁカーンの立場で、自分で食事を運ぶとか無い話なんだろうな。
貴族様で軍人の偉い人に、運ばせている私。
忘れがちだが、カーンと私の身分差は天と地である。
不敬で首と胴体が泣き別れてもおかしくないのだ。つまり..
貴様、何様のつもりだ!
ふざけた事を考えているのは現実逃避だ。
..食卓の下に潜りたい。
「海辺なら、海産物や魚介類の方が豊富なのでは?
肉の仕入れのほうが大変でしょうに」
「肉を食わせないと働かないんだよ。馬鹿どもが」
馬鹿どもがどの辺りを指すのか、カーンが顎をしゃくる。
遠目に兵士達が肉を取り合っていた。
子供のように
「新兵は喰わせときゃ働くだけ、まだ可愛げがあるよな」
見た目は髭面の強面だが若いのだろうか?
そう考えれば、成長期の子供の食卓と見えなくも、ない、のか?
「口を開いて見てないで、ほら、好きなのから食べろ」
眼の前には、汁に浸る麺の鉢。
そして無造作に置かれた金柑が二つ並び置かれた。
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