第493話 金柑 ②

 長々と混血と混合体の違いを述べたが、これは完全な混合体である公王の話をしたかったのではない。

 そのたった一つの完成体を作り出す為には、沢山の不自由をしいられる者がいたという話だ。


 ニコル・エル・オルタス。


 混合体であるはずの、の公王の妹。

 彼女は成人するとすぐに、東公領の八大貴族筆頭コルテス家へと輿入れをした。


 ニコル・コルテス。


 現公爵バンダビア・コルテスの奥方。

 美しくも公王の妹姫は、東の金主に嫁いだのだ。


 彼女が混合体としては失敗例であり事は、誰もが重々承知をしていた。

 重要なのは、彼女が公王の妹であり、彼女の夫がコルテス公という事である。

 そして彼女は既に亡くなっている。


 さて、余計なお喋りは、そろそろやめようか。

 君も薄々わかってきたようだしね。


 公王の姫が嫁ぐとは政治なのだ。

 そして、例え体にを抱えた姫だとしても、早逝するのはただごとではない。

 何故なら、王は知っているし、公爵も知っていたはずだ。

 彼女はことをね。

 ニコル・エル・オルタスは長命種の姫だった。

 何の種族であったとしても、長命な種だったのだ。

 如何な失敗例とはいえ、彼女の寿命限界は

 古い歴史を誇るコルテスに嫁ぐに相応しい少女だったのさ。

 コルテスの本領地は東マレイラ内地の山脈地帯だ。

 鉱山主であり、水源地である湖沼地帯を直轄地に持つ大貴族。

 人族優位主義、純血統主義者の長命種。

 そうしながらも南部南領との交易を執り行い、中央軍への莫大な献金をしている。

 有能な政治家であり商人であり、そして支配者だ。

 本当の彼はどんな人物だろうね。

 複雑な政治状況の支配地を代々治めてきた人物だ。

 きっと面白い人だろうね。

 知ってるかい?

 彼は未だに公王のなのさ。

 ところがどうだ。

 彼女は儚く死に、今では金の記章に名が刻まれ死んだ船乗りの身に揺れる。

 供物の女の目に映る、金の記章。 

 君が掴んだ小さな葉っぱ、それがどんな木の葉か気がついたかな?


 ***


 食堂は混雑していた。

 そして視界を埋めるのは、獣人の波だ。

 これほどの獣人の男女を目にしたのは初めてだ。

 それも皆、大型の獣人である。

 村は亜人と人族だけであった。

 獣人と言えば、その主な活動は南部南領である。

 北に来るのは、傭兵や兵士と村人には縁がない。

 そしてそのような者達も、彼らの言うところの重量獣種という者ではなかった。

 外見上は、人族にほど近い中量軽量種である。

 見た目に違和感がない者が、東や北では雇われやすい為だ。

 食事をとる男女は、皆、長身で大柄。

 初めて見るような、獣の相もあった。

 この圧巻の眺めは、第八という軍が大型の獣人種だけで構成されている為だ。

 巨人の国に紛れ込んだ気分である。


「..部屋に戻りたい」

「ん、何か言ったか?」

「お邪魔でしょうから、部屋に」

「何いってんだ、遠慮するな。

 誘拐した上に、食い物も食わせねぇのか!

 って巫女頭にクズ呼ばわりされたくねぇんだよ。

 腹、減ってるだろ?」

「いや、クリシィ様はそんな..」

「敬称で呼びゃぁいいだろうって、俺の長い家門名と領地名、連呼しながら罵るんだぜ。

 正式な方を言ってくるから、こっちは言い返せねぇしな」

「旦那、やっぱり貴族なんですね。卿と閣下、どっち呼びすれば不敬じゃないですか?」

「お前なぁ、うわぁって顔しやがって。

 まぁ傭兵あがりだ。

 砕けた感じなら卿が普通だ。

 一応、閣下呼びされる立場でもある。さて、どこに座るかな」

「..部屋に戻りたい」

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