亡霊の章

第492話 金柑

 『ニコル・エル・オルタスの肖像』


 現在の公王ランドールには、三人の妹がいた。

 それぞれに母親の違う妹だが、ニコル・エル・オルタスは、長命種の血が表にでておりではない。

 混合体としては失敗例とされているが、彼女はである。


 人族は、大きく二つに分けられる。

 長命種と短命種だ。


 短命種は長命種派生の混血種である。

 しかして、短命種としての種の確立がなされていた。

 つまり、短命種の子供は短命種として産まれ、長命種として生まれる事は難しい。

 一般的に知られているのは、長命種は一度でも混血すれば、種として戻る事は無い。

 勿論、知識も、グリモアの蓄積された知識にしても否定している。

 トゥーラアモンのエリにして、長命種が産まれにくくなるだけの話だ。

 さて、この長命種という種にも三系統の違いがある。

 これは解剖学的においての差でもあるが、この話は不要なので割愛する。

 オルタスの人類種は、寿命、外見、生活様式が大きくかけ離れている。

 しかし、彼ら同士での混血は成立した。

 オルタスの環境があまりにも厳しい事からの救済ともいえる。

 つまり単一種族では滅びにはしりやすく、その結果、混血できるように変わったのさ。

 だから種が交わっての均一化はおきていない。

 起きないように、これも変化したのさ。

 唯一の均一化と考えられるのが、人族短命種であるが、それも混血の法則を曲げる程のものではない。

 混血の法則。

 これは異種族同士が子供をなした場合の、子供の種族確定確率の事だ。

 オルタスの異種族は本来の意味での混血児にはならないのだ。

 必ず、どちらか一方の種族の子として生まれる。

 そこにあるのは、どの因子が強く、過去にどのような血が混じったかである。

 医学的な研究は行われているが、一般には経験則としての混血の法則が知られている。

 生命力の強い種族が産まれやすい。

 長命種は、他種族と混血すれば、他種族の子が生まれる。

 他種族は、割合と生命力の強い方の種族が産まれやすい。

 となる。

 生命力としたが、繁殖力の事である。

 総数が多い種族は寿命に関わらず産まれやすいという事だ。

 実際はこのように単純な話ではないのだが、唯一の例外が公王系譜だ。


 混血の子供の臓器は、種族確定によって過不足無く配分される。

 善き特質を残し、どちらかの種族となる事だ。

 外見と中身が異なる場合もあるが、必ず、生きるに不自由の無い状態で混血されるのだ。

 つまり混血と言いながら、実際は混じらない。

 臓器は必ず種族として固定するってことだね。


 しかし混合体は、その種族確定が行われず、内臓は長命種と獣人種の両方が混ざって誕生する。

 成功例とは、臓器が混じって誕生する謂わば奇形なのさ。

 それでも、外見上なら成功例になる。

 人族大公血族と獣人王家の血から生み出される混合体とは、特殊な奇形種なのさ。


 不敬?

 事実だし、公王ランドールも思っているさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る