第387話 群れとなる (下)④

「私に死ねというのですね。

 そうですか、そうなんですね。

 わかりました。

 私を殺すのは、貴方方ですね。

 公王陛下にはそうお伝えします。私はもう、これ以上、仕事はできないとお伝えします。

 代わりに、モルデンの方へ代わりの調整役をお願いします。と、お伝え下さい。

 えぇえぇ、カーンから閣下モルデンへとお伝えください。

 貴方の代わりに公王陛下一番偉い人に、誰か相談役生贄をとお伝えください。

 えぇ、きっと陛下も喜んでくださるでしょう。

 失言の少ない私ですと処刑できない。と、日々文句を仰っていますからね。

 ついでにそこな傭兵はサルバトーレにも伝言をお願いしますかね。

 私、もう、南部への功徳を積むのは止めると。えぇ、私はここで死ぬんですから。

 サルバトーレへ、いつもの巡回はお断りさせていただきますと。

 弔いと慰霊をかねての本神殿からの特別巡回は中止させていただきますとお伝え下さいね。

 私はここで死にますから。はい、どうぞ」


 それにスッと二人は争いを止めた。

 まるで何事なかったように、オロフはダランとし殴りつけていたカーンは拳を降ろした。

 後で巫女頭様に、どういう事かと聞いた。

 閣下とは獣人王の事でサルバトーレとはオロフの伯父の事らしい。

 獣人王家の今の頭領は、中央軍統括長の義理の父であり上司の上司だ。

 サルバトーレとはゴート商会長の兄で、オロフの伯父だ。

 そのサルバトーレはゴート商会の中でも金貸しで獣王と繋がっている。

 そして二人とも神殿の、特にこの神殿長には借りしかない。

 金銭の借りではない事は確かだ。

 つまり返済の難しい借金だ。

 神殿長がつらつらと語った事は、お前らが馬鹿を止めないなら、こっちにも考えがある。

 徹底的に嫌がらせをしますよ。という意味だ。

 暴れているお前達に直接色々しないけど、お前達の上の人間にその分を請求する。

 猶予のあった借りを取り立てて機嫌を損ねてやる。と、いう泣き落としに見せての脅迫だった。


「殿下を処刑して、これだけの損害の補填になると?

 殿下の財産は、公王陛下へと戻されるでしょうね。

 処刑、ほうほう。

 どうぞ、ただし、この場所で血を流す場合、ここを清めるには多大な労力が、えぇそうですね。

 西方辺境伯へと連絡を、えぇ、そうですね。

 見積もりを出させていただきます。

 私はもう、口利きはいたしませんので。一応、陛下にはお伝えしますが?

 おや、どうしました?

 続けないのですか?

 私の言葉なんて通じないのでしょう?

 私の依頼が原因ですか。

 そうですね、私が悪いんですね。

 まさか、こんな事になるなんて、殿下のお体を案じての事でしたが。

 神殿の牢へと案内しますよ。

 傷の手当も、手当は無用?

 ともかく、損害の把握と怪我人が出ていないかを確認しましょう。

 建物が損害を受けているので、巫女達も避難をしましょう。

 それから軍への報告と警衛隊にも通報が行っているでしょう。

 私は陛下への報告もせねばなりません。本当に、私は死ぬかもしれませんね」

 

 それから私に向かい彼は言った。


「すまなかったね、皆、私の馬鹿な差配のせいだ。

 謝罪をするよ。

 さぁ夜も遅い、休める場所に移動しよう。

 皆の者、愚か者達を遠ざけよ。」


 それから壁に縫い付けられていた殿下を回収する騒ぎになった。

 殿下は多少の打ち身以外、熱も何もかも治まっていたそうだ。

 グリモアが起こした変化が終わったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る