第436話 野良猫 ④
「皆、知っているのですか?」
「皆か、まぁ関係の無い人間はどうでもいい話だ。
南部、それも事情を知っている殆どが獣人だ。
直接の被害があった地域以外では知らんだろうし、俺としてはもう終わった事だ。
まして子供にまで何か思うところは無い。
罪人は死んで楽になり、苦しむのは子供ってのは理不尽だ。
だからこれまで関わらぬようにしていた。
ご奉仕にも俺は来なかっただろ?」
「神殿が保護しているのですか?」
「処分されたのはニルダヌスの義理の息子にあたる。
その家族にも連座が適応されたが、義理の父親のニルダヌスが地位や身分、権利などをすべて返上し子と孫を守った形だな。
一生を神殿奉仕で終えるとな。
レンテと娘は、強制労働刑が終了してニルダヌスの元へ来た。
彼女ら母娘は既に何の奉仕義務も刑罰もない。」
人にはそれぞれ事情がある。
ビミンに父親の事を問わずにいたが、この男と結びつくとは思わなかった。
「お前を隠す時、ジェレマイアは俺からも隠すつもりだった。」
再びの驚きに、私は相手の瞳を見返した。
冷たい輝きの中に、私の間抜けな顔が見える。
「なら何故、ここに?」
「本当は、奥地の寺院にお前と護衛の神殿騎士で向かう話があった。
コルテスに話が通ればだがな。
ところがそのコルテスに話が通らない。
形だけとは言え、中央政府へ歴史文化交流協力なんぞと分けのわからん入国申請までしたのにだ。
況や拒否拒絶の返答があればわかるのだ。
それがそもそもの正式要請の形を取っているのに、宗主からの返答が来ないのだ。
不穏な地域情勢の影響かもしれないが、まぁそこで俺が口を挟む余地ができた。
元々、こちらに用向きもあったしな。」
潮風と店の喧騒が私達を囲む。
騒がしいはずが、とても静かに思えた。
「その寺院は分派というが異教だそうだ。
呪いに詳しく古い記録が今も残っている。
お前のいう特殊な力の記録や誓約そのものの扱い方もわかるという。
コルテス公が許せば、そこで身を潜め、解呪の方法を探すのが一番であるともな。
そうであれば、俺が口を挟む必要もないし、俺自身が出ていく話でもない。
ジェレマイアが言う通り、お前のためにもなる。
俺にしても厄介払いになるだろう。」
カーンが漏らす小さな声は、私だけに届く。
その声と表情からは、訝しさと忌々しさが伺われた。
「だが初手から無理な話だ。
東は現状、そんな楽しい場所ではない。
コルテス公からの返答は無い。
他にお前を隠せる場所はあるのか。
では、他の地域はどうだとなる。
当然の話だ。」
だが私はここにいて、目の前にはカーンがいる。
続きを聞く前に、料理が並んだ。
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