第334話 落ち葉の下

 結局、すべては伏せられる事になった。

 腐土新法を用いて、私の情報を秘匿する。

 と、祭司長と本神殿長の周囲、そして直接関わりのあるカーン達だけで話を伏せるらしい。

 祭司長は、私に言った。


「君が考えるよりも、私には理解できる話だった。

 ただ、気がかりがある。

 君の神が、どんな結果を求めているのかわからない事だ。

 カーン達を呪い殺すという訳でもない。

 君を弱らせるような呪縛でもない。

 それでいて君だけを強く縛り付けている。

 君の神と対話をし、できれば解呪したい。

 だが時期が悪い。

 私に時間の余裕が無いんだ。

 腐土攻略に今度の騒ぎだ。

 君には迷惑な話かもしれないが、中央神殿にて身柄の保護を提案する。

 腐土新法による人身保護って名目でね。

 このよくわからん名目で保護すれば、誰も君に干渉できないんだ。

 例えば、公爵からグリモアを受け継いだ。という証言を聞いたカーン達は、軍部に報告をしなければならない。

 けれど、この腐土新法の特別法令を適用すると、身柄を保護したって報告だけになる。

 グリモアやその他の詳細な内容は伝えずにすむんだ。

 そして次に、君の種族を神殿内部で私の派閥内に留めておけるっていう利点がある。

 君の種族などを知って、何かに利用しようっていう輩を排除できるんだ。

 後は、ボルネフェルト公爵関連の取り調べ、審判を受けずに済む。

 何故、保護を提案するのか?

 こちらこそ聞きたいよ。

 なぜ、君は自らを苦しめようとするんだい?

 公爵との関係性を持ち出して、わざわざ軍部の取り調べを受けるというのかい?

 君が子供で貴重な精霊種だとしても、彼らは何も斟酌せずに情報を搾り取ろうとするだろう。

 グリモアが何か、神との契約が何か、そんな事を考えもせずに罰当たりな事を為すだろう。

 ぞっとするね。

 神の怒りがふりまかれる結果しか見えない。

 信用できない?

 まぁ信用できるような大人には見えないよな。

 ごめんよ、頭を下げるよ。

 だから私達の手をとって欲しいんだ。

 胡散臭い宗教の祭司だとしてもね。

 それに私はこれでも、ちょっとした力がある。

 中央軍人を顎で使えたりするのさ。

 君が歩けるようになるまで、君の足代わりを調達できるって訳だ。

 ん?

 イグナシオとスヴェンは却下だ。

 子供に慣れてねぇ。

 オービスとモルダレオは顔が怖い。

 なんだよ、事実だろ。

 エンリケは駄目だ。

 顔が良すぎる。

 理不尽だ?うるせぇなぁ」

「ペラペラと口がよく回るなぁ」

「そりゃぁ商売だ。お前が椅子決定」

「元から俺が運んでるだろうが」


 誰も、グリモアの事は口に出さなかった。

 私の嘘を論う事もなかった。

 ただ、会話をして忘却の呪いが薄れる事を恐れ、私は口数が減った。

 カーンも、嘘を詰らない。

 それがとても不安だった。

 そうした会話の直後、地の神の痕跡が見つかったと知らせが入る。

 やっとエリの行方がわかったのだ。

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