第2話 我が森

 夜には雪になるだろう。


 背嚢に荷物を詰める。

 森は、熟練の狩人しか入らない。

 季節を問わず、厳しい場所だ。

 領主は開墾を諦めていたし、村人は飢饉でもない限り森に近づくことはない。

 村の狩人は六人。

 私を含めれば七人か。

 見習いは子供が二人。

 その見習いは、大人の狩人がいなければ森には入らない。

 危険なのもあるが、森は禁忌の場所と思われている。

 なので、普段から女子供は近寄らせない。

 森の広さと人口を考えれば、狩人の数は少ない。

 そして狩人は年嵩の、というより年寄りばかりだ。

 熟練の狩人であるが、冬の森に入るには体力が少々不安だ。

 ならば村人はどうだ?

 頑健な男は戦にとられた。

 帰ってきた男達は、身が不自由で森に入るなぞ論外。

 ではやはり爺たちが森に入ることになる。

 だが、断った?

 断ったから、彼らはここに来た?


 違う。


 私が森に入る事を許されているのは、爺たちが一緒だからだ。


 女は森から災いを呼び寄せる。


 そう考える村人が私の事を教えた?

 余所者に、災いを呼ぶ女を道案内にはしない。

 爺たちが許さないし、村人は、そんな恐ろしい事をしたくない。

 したくないが、した。

 何かあったのだ。

 不安が膨れ上がる。

 思考がまとまらない。

 それでも体は手早くいつもの狩りの支度をする。

 そうして手の中の物を見て我に返った。

 怖がるのと狼狽えるのは違う。

 怖いのは当たり前。

 怖さで動けなくなるな。

 無意識なのだろう、馴染んだ弓を棚に戻した。

 高価な素材の弓は、必要がない。

 それに狩りではないのだ。多分ね。

 厚着をし、防水の靴を履く。

 小刀を差し革帯を体に巻いた。

 この森がどれほど厳しい場所か、男達は分かっているのだろうか?


 前後を挟まれ、彼らの連れが待つという森への林道を進む。

 どんな愚か者なんだろうかと、時折強さを増す風に吹かれて歩く。


 やがて、寂しい景色の中に、異物が見えた。


 黒い森を後ろに控え、林道の潰えた先には巨大な軍馬が数騎。


 血の色だ。


 枝下に集う輩の外套の、臙脂の裏打ちに刺繍が施されている。

 赤黒いその模様は、炎のようにも、蛇の舌のようにも見えた。

 表は黒い外套を纏う彼らは、軍馬に負けぬほど大きく、そして禍々しく見えた。


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