冬の狼

C&Y(しーあんどわい)

喪失の章

第1話 厭な予感

 静かな雨音に異音が交じる。


 そっと伺い見れば、不穏な姿があった。

 黒々とした冬の景色から、余所者がこちらに向かってくる。

 扉の掛け金を見てから、意識して息を吐いた。

 孤独には慣れていても、痛み苦しみには臆病だ。

 暴力の気配、恐怖の香りを忘れる事は難しい。

 幸せな気分や記憶はあっさりと消えるのに。


 余所者は二人、長い外套がすっぽりと足元まで覆っている。

 頭巾の付いた外套なので、どんな様子か伺い知れない。

 ただ、体つきから大柄な男達であり、金属の塊のような剣を腰から下げている事。

 立派な足元の長靴は、金属で補強してある事。


 何の用事であったとしても、暴力の臭いがした。


 程なく扉が叩かれた。

 息を殺していると、甲冑独特の音が聞こえる。

 人がいると分かっているのか、訪いは執拗だった。

 扉を蹴破られる前にと、私は渋々と閂を抜いた。


 男達は領主の客だと言う。

 だからどうした。と、思うが、彼らは森の中に入りたいという。

 そう、私からすれば勝手に入ればいいと思う。


 そもそも、冬のたち枯れた森に何の目的で入るのか?

 何故に、私のところへ?

 と、疑問ばかりの口上を述べる。


 道案内を頼むとの話だが、そもそも、村人は森に入らない。

 領主に認められた狩人以外は。

 その狩人はどうしたのだ。

 口に出さなかったが、表情で分かったのか。

 男達は、私以外は出払っていたと答えた。


 本当に?


 本当か嘘かなど、そもそも彼らの正体も、領主の客かも私には、わからない。

 恫喝されないのを良しとして、私は支度をするから待って欲しいと答えた。

 それに男達は、道案内の礼だと金を懐から出した。

 金払いだけは良いのか、革袋は結構な重さだ。

 無事目的を果たしたら、礼金も弾むという。

 ますます、厭な予感しかなかった。

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