第3話 狩人

 何だ、まだガキじゃねぇか。


 不機嫌な声音は、ひときわ大きな男からだ。

 周りの男も大きいが、この男は後ろ足で立ち上がった熊のようだ。

 案内の男達の胸辺りに私の頭が届く。

 この男になると、腰のあたりだ。

 つまり、標準的な村の大人でも、この男にしてみれば、子供に見えるだろう。

 私は敢えて否定せずに視線を流した。

 気になる事があったからだ。

 気になることは、離れた立ち木の側にいた。

 見習いの一人、鷹の爺の孫だ。

 鷹の爺とは、狩人の頭だ。

 爺の孫は、穏やかな父親に似ず祖父似だ。

 いつも大人を小馬鹿にしたような顔をしているが、今は顔色が悪かった。

 私が頷くと、少年も頷いた。


 これは異常だ。


 少年は油断なく男達を見ていた。


「爺たちは?」


「いない。婆ちゃんが、姉ちゃんに頼んでくれって。森神様が怒らないようにって」


 驚きを顕さないように、私は空を振り仰いだ。

 私以外に、森に入れる者がいない。

 爺達に何かあったのだ。

 つまり、村に異常があったと言うことだ。

 もしくは大人が出てこれない何かが今、おこっている。

 だが、村の鐘は鳴っていない。

 野盗に襲われたわけでも、火事が起こっているわけでもない。

 では、何だ?


「おい、お前ら、ガキばっかり見つけてこねぇで、まともな道案内を探してこいや」


「女と子供以外、村にはおりませんよ。

 領主館の者によれば、案内人はすべて先行していると。

 それでも探すならと、言われたじゃないですか」


 大男のぼやきに、私を連行してきた男の一人が答えた。

 先行している?

 この森をか?

 領主の命だろうか?


 何の為かは分からないが、村には男が居ないではない。

 多くは戦争帰りで身が不自由。

 だが、農作業には問題はない。

 ただし、森に勇んで入るには無理がある。

 元々、この森には狩人以外ははいらない。

 入らないし、入れない。

 隠したか?

 多分、領主の命なら男手を出したが、余所者の愚かな要望に貴重な男を出すなんて、端から考えもしなかったろう。

 問題は、爺たちが先行する理由だ。

 言い合っている男達から離れると、私は爺の孫へと身を寄せた。

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