第336話 落ち葉の下 ③

 冬枯れの景色に、明るい緑が見える。

 そこだけは暗い色合いが薄れ、色彩が戻っていた。

 置かれた白小石は、初夏の小川で見つけたように輝き、削り出されたように何れもつるりとしている。

 それが点々と草むらの中に隠れていた。

 皆で、その石をたどる。

 石はくねくねと曲がり置かれ、時には渦のように巻いていた。

 それを祭司長を先頭に、ライナルト、私を抱えたカーンが続く。

 奇妙な行進は、草地を無秩序に行き来する。

 不思議と静かだ。

 何処からともなく吹き付ける風も穏やかである。

 ほんのりと香るのは、あまい花の香りか。


「これを見つけた者は何者だい?

 聞きはぐっちまったが、報告者は別の官吏だったし。」


 先頭を進む祭司長の問いに、ライナルトは答えた。


「私の母方の氏族から出している領兵で、記録係をしている者です。

 フリュデンの地下と周辺の地図作成を命じておりました。

 石を発見後、城塞と地下水路に関連があるかと、地面に置かれた石の位置を記録しようと歩きまわったそうです。

 先に進めなくなるまで歩いた末に、手配されていた行方不明者を発見し報告となりました。」

「それ、サラッと報告してるけど普通じゃないからな」

「何がだ?」


 カーンの疑問に、祭司長は立ち止まり振り返った。


「これな、神の足跡ね。

 そんで俺と一緒だから、お前ら見えてるだけ。

 普通は見えないし、ただの砂利な。

 それを職人芸で記録した奴が普通じゃないの。

 見えないし、見えても記録できないの。

 地図作っちゃってるけど、書面にできない芸当なのよ。

 まぁ書面にされても、視えないやつじゃ歩けないけど。

 そいつ、うち神殿に引き抜いていい?」

「光栄の至に存じます」

「いやいや、強制じゃないから。家族と相談してくれよ、無理やりじゃないからな。」


 等間隔で草の間から、小石が出てくる。

 それを追い歩く。

 確かに、常人で見つけ歩くのは難しい。

 ほんのりと神気が残っていても、それを草の影から見つけ、不規則に置かれた物を記録しようとは思わない。


「愉快な御方のようだね」


 祭司長の言葉に、カーンが鼻を鳴らした。


「だってそうだろう?

 こんなにまがりくねったり渦巻いてたり、遊んでたんだよ。

 子供を相手しながら、寄り道したりしてたんだよ。

 この置かれた石だって、子供がすきそうなツルツル具合だ。」


 だったら、いいな。

 怖いこと、悲しいこと、つらいことの後だ。

 お友達と、ちょっと遊んでいたのなら、いいな。

 そうして大人達は神妙な顔をして、何もない草地に列を為して歩く。

 右に左に、時々戻ったり。

 道も目印も、行き先もわからない。

 見回してもただの草地である。

 カーンがイラッとする、まどろっこしさだ。


「何処に子供がいるんだよ」


 何も無い草地に痺れをきらしたカーンの問いに、祭司長はわざとらしい溜息をついた。


「だから言ったろ。

 見つけた兵士がおかしいんだよ。

 この草地全体が神の居場所になってる。

 目隠しされ借り置かれた神域になっているんだ。

 招かれた者しか辿れないんだよ。

 だから何にも見えないし、招きどうりに進まなきゃならん。」


 そうして雑談も途切れ、歩き回ること暫く。

 忽然と一本の大樹が目の前にあらわれた。

 何も見えなかった草地の中心に、大樹が色を添えている。

 季節外れの草地は消え、落ち葉舞う秋がそこにあった。

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