第337話 落ち葉の下 ④

 はらり、ひらりと落ち葉が降る。

 暖かな色の落ち葉が、ゆっくりと夢に揺蕩うように降り積もっていく。

 その柔らかな落ち葉に、小さな子供が寝ていた。

 暖かなそよ風の中で、子供はうたた寝をしている。

 そして地の神は木の根の上におわすれば、我々を見、鎌首をもたげた。

 今ならわかる。

 どのような姿であれ神は神だ。

 禍々しき祟りも、子供を守る姿も、ひとつ。

 何も婆様の呪術によりひとつになったのではない。

 元より、神は神なのだ。

 人に都合の良い神などいないのだ。

 ただ、エリの友達が殊更、人の子を愛してるだけの事。

 そして友と同じ人に慈悲をかけるだけの事だ。

 私は降ろしてもらうと、神のお慈悲に感謝をし、地に額づいた。

 ライナルトが同じく並び、膝をつく。

 祭司長はカーンを促すと、一緒に後ろに下がった。

 暫くそうしていると、小さな神はスルスルと木の幹に這い登り姿を消した。

 それを見届けると、祭司長は慎重に木の側へと近寄る。

 そして寝ているエリに、そっと手を置いた。


「大丈夫なようだ。

 ライナルト卿、この子供を運んでもらえるかね」


 私を再び抱えると、カーンが唸った。

 何が何やらわからぬ。とでも考えていそうだ。

 彼からすれば、いなくなった子供が突然出現した木の幹で寝ていた。

 そして私やライナルトが平伏するやいなや、祭司長が触って終了。

 何だそれは?である。


「今のが地の神だよ」

「どれがだ?」

「子供の側にいただろう?

 顔なじみが迎えに来たんで、お許しがでたのさ。

 さもなきゃ、子供の側にたどり着けなかった。

 はぁ、心臓に悪いや」

「何を驚いてんだ?

 俺の方がわけがわからんで驚いてるぞ」

「お前には、地の神がどんな風に見えた?」

「見えなかった。子供の側に神なんぞいなかったぞ」


 カーンの答えに、祭司長は笑った。


「じゃぁお嬢さんが説明してやってくれ。疲れたわ」

「白い小蛇の姿でした。

 エリのお友達は、白い蛇神様です。

 愛嬌があって味のあるお顔の蛇神様ですね。

 少し微笑んでいらっしゃるような、優しい感じでした。

 エリの側で、お昼寝を見守っていらっしゃいましたよ」

「味のあるお顔の白蛇かぁ。ちなみにライナルト卿はどんな感じに見えたかね?」

「よく見かける毒の無い蛇に見えました。

 普段見かけるものと変わりなく。

 ただ、子供の側にいたので、あれが神かと」

「それなら俺も見た。見たが、あれがか?」

「まぁそうだな。

 神がいるって断言した後だ。どんなぽんこつ無神論者のカーンでも見えはするか。」

「んじゃぁお前は、どんな風に見えたんだ?」


 それに祭司長は、大きな溜息をついた。


「まぁ帰りながら話そうぜ。行こう」


 私達を促すと、神官は歩き出した。


「エリは大丈夫そうですか?」

「寝ているだけのように見える。すぐに医者にみせよう」


 ライナルトは、エリを抱え直すと、安堵したように笑った。


「脱水しているようにも見えぬ。死なせずにすんだ。ありがたい」

「よくよくこの一帯を神域として祀るように」

「畏まりました」

「はぁ、まったく。寿命が縮んだぜ」

「どうした?」

「俺にはよ、愛嬌のあるお顔の蛇神様とやらには見えなかったのさ。」

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