第175話 侯爵

 冬の陽射しが城の回廊を温める。

 トゥーラアモンの城館しろやかたは、想像していたよりも美しく、また、生活感があった。

 戦の城では無い事と、傷つくこと無く長い時を経ているので、陰鬱いんうつな雰囲気が薄れている。

 何処か、神殿や教会に漂う静けさもある。

 そう感じるのは、城館の外が慌ただしいのもあった。

 兵士や官吏が、気忙きぜわしく動き回る。

 私達は、未だにその騒々しさの外にいた。

 そして何故、高級な絨毯じゅうたんを踏んでいるかというと、侯爵が面会を望んだからだ。

 粛清者の来訪と自領の村の壊滅、どちらにも興味はあろう。

 なら、私とエリは待っていても良かったんじゃないだろうか。

 サーレルだけで十分だ。

 侯爵も粛清者が自領に来訪したから、会いたいのだ。


「でも、使者の方は、面会したいとは言っていませんよ。

 まぁ本心はわかりませんが」


 サーレルだけは楽しそうだ。


 趣味の良い落ち着いた内装は、柔らかな色合いだ。

 建物の奥へと案内を受けながら、中庭の景色に目を奪われる。

 自然を損なわない美しい緑。

 計算された配置なのだろう。

 本当の金持ちは、気付き難い部分に手間をかけている。

 使用人も健康そうで、お仕着せも清潔だ。

 もちろん使用人が薄汚れているようなら、その領地も先が無い。

 複雑な通路を抜け、奥まった所へと案内される。

 どちらかというと人を招く場所ではない。

 貴人の私室へと続く裏廊下だ。

 徐々に細い通路になり、使用人とも出会わなくなる。

 その分、高貴な身分の人が暮らすに相応しい調度が目についた。

 それは侯爵の私的な空間へと案内されているという意味だ。

 やがて通路は終わり、武装した男が一人立つ扉にたどり着く。

 黒鉄の兵装は案内してきた男と同じだった。

 彼らが侯爵の騎士、私兵なのだろうか?


(因みに、地方領地支配者の貴族の兵力を、領土治安兵と呼ぶんだ。

 あくまでも王国所属の領主貴族なので、治安維持の警備兵だね。

 領兵は、自領から徴兵した平民からなり、彼らをまとめて動かす騎士を普通は雇う。又は、領主の氏族からなる騎士団をつくり動かす。

 あくまでも氏族の集まりとしてね。

 ここでいう私兵とは、侯爵個人の意志で動かせる兵士、騎士の事だ。

 また、王国戦時徴兵での兵役も貴族の子弟の重要な役割であり、王国軍には彼ら氏族から、一定数兵役に着く義務もある。

 僕が兵役についたのも、この義務のお陰だね。

 お陰で色々、実験できたよ。

 それにともお会いできたしね。

 で、蛇足だけど、地位的には中央軍の階級を持つ、そこの獣人が上位になる。つまり、ここの場所で一番上の身分さ。

 突発的なの際の発言権は上になる。

 でも、ここはアイヒベルガー侯の領土であるため、現在の発言権は侯爵が上位にあたり、その侯爵からの信任を受ける騎士が、そこの獣人より上位になる。けど、彼は誰にも頭を下げる必要はないんだ。

 彼はだしね)


 私はため息をついた。

 どう受け取っていいのかわからないが、聞き流すのにも気力がいった。


(世間話じゃないか。

 答えを先に言わないだけ、僕は優しいと思うんだけどなぁ)


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