第618話 目覚めし者は優雅に嘲笑す ②
森に燃え広がらないだろうか?
私の心配を他所に、淡々と火種を館に埋めてまわる。
「冬にこの湿気だ。
館は塀と堀に囲まれてもいる。
生木もそうそう燃えやしねぇ。
骨格は石造りだ。
燃える物だけ燃えるさ」
と、言うが、別段近隣の村さえ残れば、この辺り一帯が燃え尽きても良いと思っているようだ。
だが、そんな事になったら、
天罰で花が頭に生えますよ?
「冗談じゃねぇ。
こちとら無償で掃除をしてやるってんだ。
感謝されこそすれ、何で祟られるんだよ、おい。
こっちはその祟りのお陰で、砥ぎを終えたばかりの剣を無くしたんだぞ。」
こだわるところは、そこですか?
「あのなぁ、これでも俺は中央軍の歩兵が出身だ。」
それが?
「獣人兵は、歴史上、奴隷民兵が元だ。
その殆どが歩兵種になる。
そして多くが剣闘士として使われてきたんだ。
だから、本来は歩兵と呼ばれるところを、蔑称に近い剣闘士兵なんぞと呼ばれているんだ。」
なぜ蔑称をそのままに?
「今でも見世物の剣闘はあるが、中央軍の剣闘士兵ってのは、つまり、剣技が図抜けてうまい兵士って意味でもあるんだ。
剣いっぽんで喰っていけるってな。
お前の知ってる奴で言やぁ、二ルダヌス・バーレイがそれだ」
ビミンのお祖父さんですね。
「引退してるが、二ルダヌスは剣闘士兵、歩兵種の筆頭百人隊長で剣聖と呼ばれる達人だった。
獣人は体を変化させて肉弾戦になるほうが、楽だし強い。
だからこそ剣技を極めて戦うってのは、尊敬されるって事だ。
ようするに、俺もその剣技ってやつを極めることを目標とする兵種だった訳だ。」
なるほど。
だから、剣が大切って訳ですね。
「剣こそ人生、剣こそ真の義、っていうような教えを、耳が腐る程叩き込まれる。
奴隷だった頃の戒めも含めてな。
理解してないよな、その顔は..まぁお前の価値観で言うところの、珍しい果物が剣なんだよ」
大きな剣が果物?
美味しくないのに。
「まぁ俺には美味しいのさ。
通常の両手剣は4ペデの長さだが、俺は必ず6ペデにする。
こだわって注文した特注品が、一回で駄目になった。
当分、既製品か官給の奴で我慢しなきゃならねぇ。」
同じようなのは?
「無いんだよ。
デカくなればなるほど、造るのに時間がかかるんだ。
その前に使ってたやつも、芯が駄目になってるし、手持ちが中型と儀式用のだけなんだよ」
やっぱり身長に合わせて大きくしてるんですか?
身長いくつです?
もちろん、普通の人型の時のですよ。
「2パッスぎりぎりか?」
私は1パッスです。
「お前小さいもんなぁ、5ペデには届かねぇだろ。
たくさん喰わねぇと大きくなれないぞ」
私は1パッスです。
***
注)大きさなどの基準は中央王国の場合、短命人族種(私達で考える人間の平均値)が元になっています。
ここで話されている大きさは以下の通りです。
1パムが大人の掌(約10センチ)
1ペデが大人の歩幅(約30センチ)
1パッス=5ペデ(約150センチ)
1ミッレ=1000パッスという感じになります。
つまりカーンは獣人でも高身長で、オリヴィアは小さいと言われていますが、私達からすると小柄な少女で決して幼児のような姿ではありません。
あくまでも獣人からすると子供サイズなだけです。
なのでオロフが、わぁ子供じゃないじゃん、やばいぃ〜という感想は間違っていません。
カーン達は、初手が小僧から始まっているので、認識にフィルターがかかっている為に、子猿、子供という感じになっているのです。
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