第264話 反魂 ③

(さて、講義をつづけようか。

 侯爵だけはわかっていた。

 自分の子供が短命種でもいいのだ。

 だって、シュランゲと直系を縁付かせるのは既定路線だ。

 けど、エリカという子供が生きているかぎり、次の亜人から長命種の子供は産まれない。

 本来は、限りなく産まれない子供を誓約の要にしているのだからね。

 命の炎が消えかけて初めて次の子供が産まれるのさ。

 冷血と侯爵は言うが、そうでなければ続かない。

 エリカがいなければ、可能性として、あの女の子供は長命種だった。

 それが自分が長命種だという根拠にはなりえないんだけどね。

 でもだからこそ、これが奥方が結婚できた理由だ。

 いくら口先だけで長命種の出だなんだと言っても、すんなりと結婚できたのはこの為なんだなぁ。

 廃嫡理由にする為ってのは、表の理由。

 裏の理由は、隠され子を作り出す血を混ぜる事。

 まぁ約定を果たしたわけだ。

 嘘つきがいっぱいだ。

 それに死んだ嫡子も、隠れて恋人に会いに行く必要はなかったんだね。いや、侯爵は把握していたか。

 愚かな話だよね。

 息子達と話し合えばすんだ事ばかりだ。

 彼も又、壊れた場所に長く生き過ぎていたのかもしれないね。

 この土地に長く縛られすぎて、この氏族は壊れてしまったんだ。

 まぁ当然だよね。

 先住民であるシュランゲの祖は、彼らが死ぬほど苦しめばいいと思ったのかもしれない。

 侵略者だもの。

 そう考えると、これも呪詛の一つの形かな。)


「特別な血を毎日、与えられたモノに注ぐ。

 薬であり、毒であり、それは神の力を宿す玉になる。

 その一部を金属に混ぜて武器などに加工した。

 神の力を宿す玉、それを使えば力を得られるという。

 死者をも蘇らせ、語らせる力をな。」

「誰がそのような世迷言を」

「その覚え書きにあった。

 使えば、死者と会話できると。

 今一度、反魂の術にて死者を蘇らせる事ができると」


 私は、元の羊皮紙の中から、侯爵が示した物を手に取った。

 勿論、私に古代語の素養はない。


「読めるのですか?」


 サーレル達には、読めないとしていた。

 今更である。


「えぇ、ワタシなら」


 典雅な文字を追ううちに、その意味が頭の中に溢れる。

 あぁこれは。


「侯爵様、これの続きはどこでしょう?」

「どういうことだ?」


(肝心な部分が見落とされているね。

 これも意図的に仕組まれていそうだ)


「こう書かれています。


 死者をも語らせ蘇らせる。

 奢る者には...

 ここで文字が途切れていますが、先があるのではと」


 侯爵は書棚に向き直ると探し始めた。


「古代語は、とてもスラスラとは読めませんね。で、どこで習ったのです?」


 言い訳が面倒になり、私は肩をすくめた。

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